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[アクさく] 空の下、星の下

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 こうして賑やかな場所にあっても、芥辺は物静かで崩れがない。隣で見ていて気づいたが、ぬっと出てきた財布も彼のスーツと同じく真っ黒だった。どこまでも彼らしいと言えばそうなのか。イケニエ代は経費で落とすと言うのでレシートを渡せば、あっという間に豚足入りの買い物袋も佐隈の手から攫われて芥辺の左手におさまってしまった。つくづく分からない人だ。

 それからは佐隈は芥辺に肩を押されることもなく、用事はアザゼルのための豚足だけだったらしい。このまま地上に戻るものと思いきや、芥辺はそのまま物色を始めた。まだ何かあるのだろうか。佐隈としても色とりどりの洋菓子を見てまわると目にも楽しかったし、人の多い場所で別行動は避けた方が無難だ。ちらりちらりと遠目からデリを眺める上司の背を、邪魔にならない程度に追った。
「アクタベさん、お昼まだなんですか?」
「うん」
まるで博物館の展示品を見る子どものように、しげしげと飴細工を眺めている。
「さくまさんはもう済ませたの」
「まだです、お腹空きましたよねえ」
 
 もうお昼も過ぎているんだしと、ここまで考えて鞄の底にある携帯電話の存在に佐隈は青くなった。しまった!見れば、既にアルバイトの出勤時刻をとうに過ぎている。隣に上司がいるものの、これは一応遅刻に当たる気がする。つい先ほどまで隣であれこれとウィンドウショッピングに興じていた弟子が、今は自分の携帯電話をじっと見入ったままぴくりともしないを見かねたか、芥辺が声をかけてきた。
「どうした」
「一応聞きますけど、私ここにいていいんですか……バイトの時間が」
「ああ、お使い頼んだのは俺だし。ここに来るの嫌だった?」
佐隈が首を横にぶんぶんと振る。そういうわけではないのだから。
「そう。良かった」
気にするなと、さらに念を押されてほっとする。さすがに、この状況で叱られてはたまったものじゃない。思い返せば、事務所に来てから始めの二時間ほどは大した作業もせずに食事の準備と片付けに終始しているのがいつものことだった。数人分の食事を用意するのは、案外時間がかかる。

「だったら、どこかに入って食べてから事務所に帰りません?どうせなら」
 佐隈がふとひらめいたにすぎない、それでも良いと思える提案だった。和惣菜で天ぷらを睨んでいた芥辺が動きを止める。このまままっすぐ事務所に向かったとして、やっぱり今日も佐隈が昼食を作らなくてはいけない。調理の手間を省いて、じっくりと腰を据えて済ませてしまいたいいくつかの調査や事務処理の存在が脳裏をかすめた。ちょうど事務所で働く「人間」に限っては揃って外に出ているのだし、それならば外で食事を摂ってしまえばいい。だいたい、店に入れば佐隈の料理よりもはるかに美味しいものはいくらでもある。
 二つ返事を返せばいいだけなのに、しかし芥辺はさっぱり応じてくれなかった。見上げた先に見たのはわずかに淋しいような、拗ねるような表情。予想外の反応に佐隈はぎょっとした。どうして芥辺がそんな顔をする必要があるのか。何か良からぬことを言った?私が?
「いや、なら惣菜でも買って帰ろう」
つまらない、とそういった顔をしたに違いない。違いないのに、瞬きをしたの後の芥辺は普段通りの涼しい顔だった。

 さくまさんも好きなものを選びなよ、と声がかかる。芥辺の手元には当たり前のように肉じゃがのタッパーが載っていた。なるほど、和食好きな上司のことだ。イートインのある店のメニューでは、彼の食べたい肉じゃがはさすがに見つけられないにきまっている。それならと佐隈は素直にさつま芋とカボチャの天ぷらの注文を頼んだ。それだけでいいのかと尋ねられたが、事務所には確かうどん玉が残っているはずなので、さっと湯がいて天ぷらと付け合わせて食べるのがいい。今日は湿度が高いせいか、さっぱりした麺が食欲をそそる。その湿気を運んできた正体など、佐隈はとうに覚えていなかったのだ。