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永遠に失われしもの 第16章

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 ラウル刑事にいつも珈琲を運んでくれる
 部下が、八分目に注がれたカップを、
 ラウルの机の上にそっと置いた。

 ラウルは先程まで眺めていたカールの絵を、部下に渡して命じた。



「これの写真を撮って、
 捜査本部室のボードに貼ってくれ。そして
 この絵もそのまま、
 本部室に保管しておいてくれ」


「かしこまりました」



 部下が絵を持ち立ち去るのを見届けた後、
 ラウルは先程届いた、
 ドイツ陸軍秘密情報部の
 ディーデリッヒ大佐からの暗号電報を、
 静かにカバンから出す。

 机の上に積まれた捜査資料の山の底から、
 ローマ市民の電話帳を取り出し、
 すぐに解読を始めた。


 通信された暗号は数字だけが並んでおり、
 数字三個毎にはダミーの数字二桁が並ぶ。
 
 数字はローマの電話帳の頁と行数を示し、
 そこに書かれた氏名の頭文字が、
 暗号文の本文になる。

 解読した始めの一文で、ラウルには、
 これが戦争とは無関連な大佐からの依頼だ
 という事が分かり、やや安堵した。


 今までにも数回、ディーデリッヒ大佐から
 個人的な調査依頼や情報提供を要求された
 事はあった。

 一番最近では、アズーロファミリーという
 マフィアについての情報を要求された事を
 ラウル刑事は思い出し、
 
 今回の依頼も独秘密情報部とは無関係な、
 彼個人の、何らかの仕事にまつわるもの
 だろうと理解していた。



 ・・英国・・ミッドフォード・・
 侯爵令嬢付き小間使い・・失踪・・
 イタリア入国記録・・ローマ滞在履歴・・
 生死確認・・求む・・
 イルミナティ・・ロッジ・・
 関連性・・大・・極秘調査求む・・
 詳細情報・・入手次第・・連絡要


 
 またイルミナティとロッジの影を感じ、
 ラウル刑事はすぐに、
 電報文をカバンに入れなおし、
 改めて電話帳のホテル欄を検索して、
 受話器を取った。



 ・・まずは滞在先からだ。



 一軒目のホテルが不発だったあと、
 ラウルはコーヒーカップを手に取った。

 芳醇なカカオ豆の香りと濃厚な味わいに
 驚きながらも、舌鼓を打った。



 ・・いつもより格段に旨いな。
 豆を変えたのか?・・・



 その時、ラウル刑事の部下の顔形をした男
 は、絵を片手にローマ警察署を既にでて、
 葬儀屋の待つカフェに行くところだった。