永遠に失われしもの 第16章
「アナタのせいで、魂におかしなものが
くっついているから、苦労してるのです」
ウィルは列柱を蹴って飛び、
空中に舞うフィルムを切る
セバスチャンの白い胸に抉るように、
のめり込む手首は緩やかに動き、
その先につく指は、
生暖かい心臓を掴み、揉みしだいている。
とめどもなく血を吐くセバスチャン。
額にほんの僅かに汗をかいて、
漆黒の前髪が湿っている。
一段と大きな血の塊を吐き出した後で、
セバスチャンがウィルを睨んで言う。
「いつまで待てばいいというのです?
私に嬲られて悦ぶ趣味はありませんよ。
貴方がたが回収できないのなら--」
発光体は既に足を絡ませ、躯を密着させ
セバスチャンの心臓を弄び続けている。
「魂を喰らったら、貴方ごと粉砕します」
「では、早く--」
絶え間なく続く苦痛に微かに喘ぎながらも
声を高ぶらせることもなく、
ウィルを見つめる。
その様子が気に入らないとばかりに、
発光体はさらに荒々しく、心臓を嬲った。
ウィルは、ようやく自分たちの
邪魔をするフィルムを巻き取り終わり、
セバスチャンと発光体に近づきながら言う
「では、泣きながら頼みなさい。
お願いしますと・・」
「こんなときに、
貴方の趣味に付き合えません--」
発光体の片手が、
セバスチャンの下腹部に向かう。
途端にその瞳は柘榴石のように紅くなり、
黒い爪は豹の様に伸びて、
漆黒の悪魔は、
四肢を縛っていたフィルムを引き千切った
そして漆黒の悪魔が、
自由になった両腕を発光体の心臓めがけて
突き出そうとした瞬間、
ウィルのデスサイズの刃が、
発光体の心臓を貫き、
漆黒の悪魔の両腕を切り裂いて、
ぽっかりと空いた胸の傷口から侵入し、
悪魔の心臓ぎりぎりのところで止まった。
「喰らってはいけないと言ったでしょう?」
葬儀屋が発光体の脳天から、
死神の大鎌を振り下ろすと、
カール・オレイニクの形をした発光体は、
粉々に砕け、一コマづつの切れ切れの、
シネマティックレコードとなって、
あたり一面に雪のように降り落ちた。
「まったく貴方という方はひどい--
回収に協力した私の腕をこんなにして」
両腕の肩から手首まで一直線に、
骨が見えるほど切り裂かれた傷を舐めながら、セバスチャンが恨めしそうに言う。
「事故です」
日ごろの鬱憤を晴らして、せいせいしたかのように、悪びれる表情一つ見せず、
さらりとウィルは答えた。
作品名:永遠に失われしもの 第16章 作家名:くろ