二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

永遠に失われしもの 第16章

INDEX|8ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 


 夜闇の中、柔らかく湿った土を掘り起こす
 音と虫の声が交互に響く。

 まだ埋葬されて日も経たず、
 雨の洗礼を受けていない土は、
 容易に掘り起こされて、
 うずたかく横に積み上げられていく。

 さほどもしない内に、
 葬儀屋の金属のスコップの先が、
 カール・オレイニクの棺にぶつかって、
 鋭い音を立てた。



「見~~つけた~...」


 
 葬儀屋はまだ見ぬ死体への期待にときめくように、声を弾ませる。

 虚ろな表情で、墓標によりかかっていた、
 セバスチャンが、体を重そうにしつつ、
 立ち上がる。


 葬儀屋が棺の蓋を横にずらすと、
 微かな腐乱臭と共に、
 すっかり乾燥してしまい萎れて、
 薄茶色に変色した白薔薇に囲まれた、
 カールの金髪が見えてきた。

 さらに蓋をずらせて、乾燥しきった肌に
 皺の深く入った額が見えてきた時、
 カールの死体はまるで砂絵の様に、
 細かい粒子を月の光によって煌かせ、
 身に着けていたはずの衣服もろとも、
 一陣の風と共に、結晶となって風に乗り、
 消えていった。

 棺の中には変色した白薔薇が残るばかり。

 
 その風の逝く方向目がけて、
 セバスチャンは、ずたずたに裂けた燕尾服の内ポケットから銀製のナイフを出し、
 流麗な動作で投げつける。

 空を切って進むナイフは夜闇に消えて、
 二度と大地に落ちることはなかった。


 
「何か居たのかい?...」



 葬儀屋は、消え去った死体への失望感を隠そうともせず、
 べったりと大地に腰を下ろしながら、
 ナイフの行方を確かめるセバスチャンに尋ねた。
 セバスチャンは胸の傷を押さえつつ、
 葬儀屋のいる場所に戻りながら答える。



「そのようですね--同業の匂いが。

 少なくともこれで、カールが死の間際、
 何者かと契約したことはわかりましたので
 一応の収穫があったといえるでしょう。

 私が会いにいったとき、
 彼が若さを留めておけたのも、
 そのせいでしょう。
 
 彼の契約印の紋章を確かめられれば、
 さらに良かったのですが--」



「それは夢喰らいの悪魔とは別なのかい?」


「夢喰らいの悪魔の本体は、
 こちらの世界に来ていなかったので、
 彼とは契約していないでしょう。

 あれらは単に銀の鍵を守る存在。
 私から銀の鍵を奪おうとはしても、
 そのために人間と契約は、
 しないでしょう。


 それ故、カールの若さを保ち、
 カールのシネマティックレコード
 をあそこまで動かし、
 この死体を消し去ったのは、
 別のものの仕業でしょうね」



「では、その悪魔の契約内容は...」

「ええ、貴方の考えておられる事でしょね。
 恐らく」



 私を凌辱し、身体も心も嬲り弄ぶことか、
 もしくは--



「執事君も、とんだ人間と関わりに、
 なってしまったもんだねぇ...」

「全くですね」



 セバスチャンは、他人事のように、
 興味のなさそうな顔で答えた。



「実際カールが執着しているものは、
 私そのものではなく、
 夢喰らいが見せた幻像にしか過ぎない、
 というのに--」


「恋や愛なんて、そんなものさ、元から。
 誰も心底、
 相手のことなんて分かりはしない。

 好きになった相手ですら、
 自分から見た相手でしかない。
 いわば、幻想で幻像さ...」


「だから私には、恋も愛も、無縁なんですね
 きっと」


「ヒヒヒ...」


 (時として、君は愚かだね...執事君)