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こんなかんじ。

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そのままファントムはプリマドンナの手を握り彼を導いた。
ファントムに誘われ、手を引かれるままにメルヒェンは彼についていく。
ファントムは松明を片手に持ち、薄暗い隠し通路を歩いていった。

(ああ、僕はまだ夢を見ているんだろうか…)

メルヒェンはぼうっとファントムの横顔を見つめる。
眠れば聴こえてくる優しく甘い歌声、自分を誘うその歌声の持ち主が目の前にいるのだ。
憧れた音楽の天使を目の前にし、メルヒェンはうっとりと彼に魅入った。
その視線に気づいたのか、ファントムは微笑を浮かべながらメルヒェンの黄金の瞳を見つめ返した。
そしてさらにメルヒェンをとりこもうとするかのように甘い声で再び歌いだす。

『もう一度私と歌おう、君を捕える力はますます強くなる。
 私から顔を背け後ろを振り返ろうと、私は君の心の中にいる』

地下へと続く階段を降りた先に、漆黒の馬が結びつけられていた。
ファントムはメルヒェンを抱きあげ馬の上へと乗せ、自分はその手綱を引いてさらに地下道を進む。
その間もファントムは尚メルヒェンを歌声で魅了し続け
メルヒェンもそれに聴き入りながら同じように歌いだした。

『僕達の魂は一つに結ばれている、オペラ座の怪人が此処にいる』
「もっと歌え、私の音楽の天使…」

地下道に響き渡るメルヒェンの歌声にファントムが嗤う。
馬から下ろされると今度は小舟へと乗せられ、地下の水路を進んでいく。
メルヒェンはとり憑かれたようにただひたすら美しい声で歌い続けた。
歌えば歌う程、ファントムは嬉しそうに高らかに叫ぶ。

「もっと歌え、私の為に歌うのだ!歌え!」

命じられれば命じられる程、ぞくりと背筋に恍惚としたものが走り、メルヒェンは声を高くし歌い続けた。
地下中に木霊する美声に冷たく湿った空気がビリビリと震える。
やがて小舟は大きな空洞へと辿り着いた。
そこへ近づくと、入口を塞いでいた鉄格子がずずずずとひとりでに上がってゆき
水の中から豪華な燭台がいくつも浮かびあがってきた。
その幻想的な光景に魅入るメルヒェン。その先にある空間こそがファントムの棲家だった。
たくさんの物が置かれている。衣装、楽譜のスコア、数え切れないほどの本、オペラ座の舞台模型。
その中でも一際メルヒェンの目を惹いたのは大きなパイプオルガンだった。
ファントムは船から降り、マントを外しながら微笑んで船に座ったままのメルヒェンに言う。

「私の名前はイドルフリート・エーレンベルク。イドと呼んでくれ給え」
「イド(衝動)…?」
「少なくともファントムよりはイカした名前だ」

彼の名前を繰り返すと、イドルフリートは今度は満足そうな笑みを浮かべた。
イドルフリートは自分が支配する空間を両手を広げて示して歌う。

『君を甘美な音楽の玉座へと連れてきた。
 この王国では人は皆、音楽に敬意を捧げる。
 君を此処に連れてきたただ一つの目撃を教えてあげようか。
 私は君の歌声を聴いて思ったのだ。私の音楽の為に、私に仕え歌って欲しいと…』

歌声に聴きいるメルヒェンの彼を見つめる瞳はどこか幸せそうだ。
イドルフリートはくすりと笑い、メルヒェンの大好きな歌声を聴かせる。
小舟に座ったままのメルヒェンにゆっくりと手を差し伸べると
メルヒェンは恐る恐るその手を握ってきた。
彼を立たせてそのまま部屋へと引き上げ
イドルフリートはメルヒェンの片手を引きながら甘美な歌声を聴かせ続ける。

『今までの暮らしを全て忘れ、私だけの為に歌え。私と宵闇の世界へ一緒に行こう。
 私の調べを聴いて、私の音楽を感じ取って、私に心を開き空想に身を委ねるのだ。
 君はもうこの夜の音楽に満ちたこの宵闇の世界からは逃げられない…!』

洞窟のようなこの空間であると、イドルフリートの声は一層よく響いた。
衝動に染まった狂気の瞳がメルヒェンを見つめ、彼を虜にしていく。

『さあ、君は私のものになる。…私だけのものに』

メルヒェンの頬を両手で包みこむと、メルヒェンはうっとりと目を細め
白い肌を桃色に染め上げながらじっとイドルフリートを見つめた。
耳元に唇を寄せ、甘く低い歌声を聴かせながら
ゆっくりとメルヒェンの身体を半回転させ後ろからその細身を抱きしめる。
腰に回された両手は強くメルヒェンの身体を抱きしめ、
甘い苦しさにメルヒェンは熱いため息を溢し、イドルフロートの胸に頭を埋めた。
この高鳴る鼓動を抑える術をメルヒェンは知らない。
ぞくぞくと背筋に走り抜ける快楽に今にも身体から力が抜けそうだ。

『君の心の闇を曝け出せ…私が創りだす音楽の偉大なパワーの前に!』

イドルフリートがメルヒェンの手を引いて、赤い幕の下ろされた場所へと向かう。
ザエルアポロが幕を引いたその先には、ウエディングドレスを着たメルヒェンの姿があった。
それを見た途端、夢心地だったメルヒェンは驚いて意識を失う。
ガクリと倒れ込む身体を支え、イドルフリートはメルヒェンを横抱きに抱え
そのままメルヒェンの為に造った大きく豪華な丸いベットのもとへ向かい
ふかふかのそこにメルヒェンの身をそっと沈めた。
気を失ったメルヒェンの顔を見つめながら、イドルフリートは彼の長い前髪を耳にかけてやる。

「メルヒェン…君の歌声だけが、私の音楽に翼を与える事ができるのだよ」

愛しそうにメルヒェンの頬を撫でながらイドルフリートはそう呟く。
そして、白い頬に一つ口づけを落としてから、ゆっくりとその場から離れていった。
水路の上に広がるイドルフリートの狭い夜の世界。
先程メルヒェンは気づかなかったが、壁には彼の描いたメルヒェンの肖像画が何枚も貼り付けられている。
微笑んでいるものは、憂いをおびた表情のもの。
イドルフリートは愛しげにこちらに向けて微笑むメルヒェンを眺めてから
オペラ座の舞台模型の置いてある机の前に座った。
数枚の便箋を取り出し、手紙をしたため始める。
オペラ座の舞台模型の上には次に上演予定の『愚か者(イルムート)』の
登場人物たちの人形がずらりと並べられていた。
筆を走らせながら、イドルフリートはふと顔をあげて人形へと手を伸ばした。
主役の伯爵夫人の頭と、小姓役の頭を取り外し、伯爵夫人の頭を小姓に、小姓の頭を伯爵夫人の身体にのせる。
口角を吊り上げニヤリと笑い、イドルフリートは書き終えた手紙に封をしたのだった。








深夜を過ぎてもメルヒェンの姿が見当たらない。出掛けているにしたって帰宅があまりにも遅すぎる。
寄宿舎に帰ってこないメルヒェンがエリザーベトは心配になり、プリマドンナ専用の楽屋へと足を踏み入れた。
部屋に明かりはなく、薄暗い月明かりだけが不気味に楽屋内を照らしている。

「メル?」

探している親友の名前を呼んでも返事はない。
暗い楽屋を月明かりを頼りにエリザーベトは恐る恐る進んだ。
奥まで進むと、大きな姿見が少しずれている事に気付く。
手を差し込むとガコンと音が鳴り、ずずずずと姿見が動いて、そこは扉になった。
中に入って覗きこむと、鏡であったはずの場所から楽屋の中がよく見える。
マジックミーラだ。その仕掛けにエリーザベトはごくりと息を呑んだ。
作品名:こんなかんじ。 作家名:えだまめ