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こんなかんじ2

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ソフィの報告にエレフセウスは焦ったように声をあげて問う。

「無事なのか!?今は何処に!」
「自分の部屋に一人で」
「休ませてあげてください」

ソフィに続いてエリーザベトが支配人にそう頼みこんだ。
ブラウは階段を下りながらソフィに言う。

「逢いたい」
「一人でいたいと言っていました」
「でも歌えるの!?」

雪白が血相を変えてそう聞いた。ハンニバルの主役は元は雪白だ。
自分の出演拒否で精々困って自分の大切さを再認識すると良いと思っていたのに
まさか代役が出て、しかもそれが大成功をおさめてしまうなんて思ってもいなかった。
メルヒェンが歌えなければ彼女がまたハンニバルで主役になれるのだ。
ソフィは彼女の問いには答えず、肩を竦めてから一通の手紙を取り出して全員に見せる。

「手紙が」
「早く見せて!!」

全員がその手紙の内容が気になって彼女を急かす。
レオンティウスはソフィから手紙を受け取り、封を切って便箋をとり出した。
全員が注目する中、静かに彼は手紙の内容を読み上げ始めた。

"諸君、私の劇場の運営方針に関する手紙を何通か受け取ったと思う。
諸君は私の指示を無視した。私はそれに関して大変怒りを覚えている。
けれど此処に最後のチャンスを与えようではないか。
メルヒェンは無事に諸君の手に戻した。
私は彼がスターへの道を歩む事を誰よりも強く望んでいる。
今度オペラ座にかかる新作『愚か者』では、雪白を主役から降ろして小姓役に回すのだ。
そしてメルヒェンには主役の伯爵夫人の役を与え給え。
誰からも愛されるメルヒェンにはチャーミングな人の心を掴む役を、
そして酷い歌声の持ち主の雪白には台詞の無い小姓役を。
どうだね?このキャスティングはとても理想的だとは思わないか?
いつもの五番ボックスの席から観るので空けておくように…。
さもないと、想像を超えた災難が降りかかるだろう。用件は以上だ。
諸君の忠実なる僕、O.Gより"

それを聞き終えた雪白がヒステリックに叫んだ。

「メルヒェンを贔屓する陰謀だわ!奴の恋人の子爵よ!」
「馬鹿な!僕じゃないと言っている!」

睨まれたブラウは不機嫌そうに雪白をにらみ返した。
雪白は衣装を床に投げつけて癇癪を起して叫び続ける。

「もうやってられないわ!」
「シニョーラ、此処の主役は君だ!」

出て行こうとする雪白の後をレオンティウスとエレフセウスは慌てて追いかけた。
その後を侍女たちやソフィとエリーザベトも追いかけたが
ブラウはやっていられないとばかりにその場から立ち去った。
今度こそ荷物をまとめて出て行こうとする雪白を見て
レオンティウスは彼女の隣を歩きながら焦ったように宣言する。

「小姓役はメルヒェン、主役は雪白、貴女に!」
「うまい事を言って私を宥める気!?
 そんな事言ったって私は耳を貸さないから無駄よ!
 プリマドンナに対する許しがたい侮辱だわ!」

ズカズカと歩いてゆく雪白の後を侍女と支配人が追い
その後ろを娘と一緒に追いかけながらソフィは支配人に忠告する。

「ファントムの言葉を見くびると後が怖いですよ。彼の言う通りの配役にすべきだと」

しかし二人はそれに耳を貸す余裕もなく、雪白を引き止める事に必死だ。

「酷い奴ら!主役を奪った!」
「あああ!なんでこうも次から次へとトラブルばっかりなんだ!」

泣き叫ぶ雪白についにエレフセウスも我慢の限界を迎えて嘆き叫ぶ。
雪白はオペラ座の正面の門から堂々と出て去ってやろうと扉を開く。
すると出待ちをしていたファン達がわっと扉へと群がってきた。
手に花を持ち男達が集まってくる事に雪白は急に機嫌を良くし、嬉しそうな顔をする。

「この花をメルヒェンに!」

まあほとんどがメルヒェンのファンだったようだが。
支配人の兄弟は慌てて扉を閉めた。
そしてこの期を逃すまいと、機嫌の直りかけた雪白にレオンティウスが猫撫で声を向けた。

「ファンが待っている。そして、我々も」
「あんた達の大切なメルヒェンを主役にしたら?」
「とんでもない。世界は君を待ち望んでいるんですよ、プリマドンナ!」

その後も散々雪白を持ち上げて褒め称えた支配人の二人は
何とか彼女の機嫌を直す事に成功したのだった。





ハンニバルの主役はメルヒェンで成功をおさめたものの
こうして次公演の主役は再び雪白へと戻る事になったのだ。
ファントムは主役をメルヒェンに、台詞のない小姓を雪白にと命じたというのに
プリマドンナの機嫌を損ねぬようにとメルヒェンは主役でないどころか台詞の一切無い小姓の役になった。
主役の座を取り返した雪白ただ一人は上機嫌に女王様気どりだが
ファントムの命令を裏切る配役に不安な顔をしている人間は多かった。
稽古中に伯爵夫人の横でマイムをしているメルヒェンを見てエリーザベトは呟く。

「ファントムの正体は神なのか悪魔なのか。
 彼の要求を断るなんてきっと仕返しが来る。私がメルを守らなくては…!」

そして反対側の舞台袖から同じようにメルヒェンの様子を見ていたソフィも
顔色を悪くしながら両手を組んで神へと祈っていた。

「嗚呼、神よ助けたもう。このキャストに天罰が…!
 彼からの警告をせせら笑うなんて馬鹿な人たち、私達に勝ち目はないのに。
 呪いの包むこのオペラ…恐ろしいことになる!」

ソフィに睨まれている視線に気づいているのかいないのか。
支配人の二人も稽古の様子を眺めながら顔を顰めて、何やら話をしている。
どこか不安そうな顔をしているエレフセウスにレオンティウスが複雑そうな顔で言う。

「この配役で良かったんだ。雪白はプリマドンナでありパトロンでもある。
 彼女の支援や名声を失うのはオペラ座にとっては痛手だ。
 メルヒェンに実力があるのは認めるが、実力だけでなんとかなるものではない」
「そうだな。ファントムの要求が狂っているのはいつもの事だしな。
 …ファントムの奴はメルヒェンのパトロン気取って得意面。
 ブラウの方はメルヒェンと恋のデュエットと大喜び。
 どいつもこいつもメル、メル、メル。
 メルヒェンは悪い奴じゃないかこっちの立場からしたらいい迷惑だ」

それぞれの人間達の内に不安や不満が渦巻いてゆく。
それはこの場にいないパトロンのブラウとて同じだった。
オペラ座へ向かう馬車の中で揺られながら彼は蒼い瞳を細め、物思いに耽っている。

(メルヒェンはあの日音楽の天使の事を言っていた…)

再会したハンニバルの初日の事。
メルヒェンの口から音楽の天使の話が出た事をブラウは思い出していた。
最初はふざけているのかと思ったが、まさか本当に音楽の天使が存在したとは。
狂った要求ばかりしてくる奴の正体は天使かそれとも気狂いか。
メルヒェンを独占するような狂気が文面からでもありありと分かった。
メルヒェンの為だけに無理な要求ばかりをしてくる。

(僕がメルを守らなくては…!)

ブラウはそう決心し、拳をきつく握り締めたのだった。

一方、メルヒェン本人といえば音楽の天使については何も語らなかった。
台詞の無い小姓役に回されこそすれど、それでもただのダンサーだった時に比べれば良い役を貰っている。
作品名:こんなかんじ2 作家名:えだまめ