二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

こんなかんじ2

INDEX|7ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 

その声にメルヒェンはぴくりと肩を揺らし、振りかえる事をやめて視線を彷徨わせる。
幻聴だったのだろうか、イドルフリートの姿はやはり見当たらない。
不安げな表情のままメルヒェンは手に持っていた薔薇をもう一度眺める。
不安定で儚いその後ろ姿をブラウは黙って見つめていたが、やがて愛おしそうに目を細め
ゆっくりと彼の背中に歩み寄り、寒さと恐怖で冷えきったその身体を後ろから抱きしめた。
ブラウは彼を安心させるように優しい微笑みを浮かべてメルヒェンの冷えた頬を撫でてから
落ちつけるようにとメルヒェンの冷たい手を握りながら、雪の積もった屋上を歩く。
優しく落ちつける蒼い瞳に真っ直ぐに見つめられ、メルヒェンも同じように黄金の瞳で彼を見つめ返す。
虜になるかのようにブラウだけを見つめるメルヒェンの手からぽとりと小さな音をたてて薔薇が落ちた。

「……」

しかしメルヒェンは薔薇が落ちた事も気づかずにブラウと見つめ合っている。
影からその様子を見ていたイドルフリートは顔から血の気を引かせ、碧い瞳を見開いた。
ブラウはメルイヒェンの手を引きながら優しい声でメルヒェンを導く。

「メル、宵闇の世界の話はやめよう。
 恐怖に怯えて目を見開く事もやめてしまうんだ。僕が君を守るよ」

暖かい手で冷たい頬を包む。
メルヒェンにしか向けぬ優しい眼差しと穏やかな声は愛に満ちていた。

「君に自由を感じさせてあげる。
 僕は君を守りその手を引く為に此処にいるんだ、こうして君の傍に」

遠い昔、幼い恋を自分に囁いた少年はこんなにも頼もしい青年に成長した。
小さな恋人同士の時とは違う、甘い優しい愛を自分に囁くブラウにメルヒェンは目を細める。
離れていた長い時の中で互いに随分と変わってしまったが
それでも互いを想う気持ちは少しも変わっていなかった。
メルヒェンはブラウの蒼い瞳を見つめながら甘い声で応えた。

「ブラウ、僕を愛していると、僕無しでは生きられないと言って。
 そして君の言葉は全て真実だと誓って欲しい…僕の望みはそれだけだから」
「誰にも見つからない、もう安全だよ。僕が君を助け出して光りに導いてあげよう」
「僕が欲しいのは自由。そして恐ろしい宵闇の訪れない世界。
 …けどもうブラウが僕を抱きしめて匿ってくれるから、宵闇を恐れる事はない」

メルヒェンのブラウへの愛の言葉を聞いてしまったイドルフリートの瞳が絶望に染まった。
表情を凍りつかせたまま、聴きたくないのに二人の歌声を聴いてしまう。
悲しみと絶望の淀む虚ろな碧い瞳が真っ白な雪の上で抱きあう二人の青年をじっと見つめる。
メルヒェンは幸せそうにブラウの腕の中にいた。
ブラウはメルヒェンを優しく抱きしめながら耳元で優しい愛を歌う。

『僕と分かち合うたった一つの愛、たった一度の人生を誓って欲しい。
 君をその孤独から救い出したいんだ。
 僕無しでは生きられないと、君の傍には僕が必要だと言っておくれ。
 君が何処へ行こうとも僕はついて行く…メルヒェン、僕の望みはただそれだけなんだ』
『誓って欲しい、僕と分かち合うたった一つの愛、たった一度の人生。
 その言葉があれば僕は君について行く…』

イドルフリートの為に歌われていた愛の歌が
今は別の男に向けて、もっと極上の甘い声で囁かれていた。
甘い愛の旋律を奏でるメルヒェンとブラウは二人きりの世界に浸り見つめ合う。
ブラウの優しさに触れ、心の氷の溶かされたメルヒェンは涙を浮かべて微笑む。

「ブラウ、僕を愛していると言って」
「愛しているよ。…分かってるだろう?」
『君の愛を、この世での望みはただそれだけ!』

二人の歌声が重なったすぐ後に、唇までもが重なり合った。
イドルフリートはそれを見て思わず二人から目を背ける。
震える自分の身体を抱きしめながらその場にしゃがみ込み、込み上げる吐き気を耐えた。
胸が張り裂けるように痛み、頭にも鈍痛が襲う。碧い瞳は絶望に染まりきっていた。
ファントムが自分たちを見ているなどと思いもしないメルヒェンとブラウは深い口づけを交わし、そっと唇を離す。
そして微笑み合った後、またお互いを求めるように舌を絡ませた。
ブラウに優しく求められメルヒェンは瞳を閉じてそれを受け入れる。
メルヒェンの細い身体を強く抱きしめながら
ブラウは自分の熱が彼に移るまで何度もメルヒェンの冷たい唇を啄ばんだ。
冷えきっていたメルヒェンの唇から甘い吐息が零れると、ブラウはやっとメルヒェンを解放する。
銀色の糸が二人の唇を繋ぎ、メルヒェンの吸われて紅く火照る唇からほうとため息が零れた。
ブラウが愛おしそうにメルヒェンを見つめその頬を撫でる。
蒼い瞳に見つめられ急に照れくさくなってしまったメルヒェンは彼から顔を背ける。

「…行こう、皆が探している」

顔を隠しても、髪の隙間から覗く耳が真っ赤になっているのは隠せなかった。
ブラウが出口に向かおうとするメルヒェンの手を素早く握って捕えると
メルヒェンは不思議そうな顔をして振り返る。
その身体を引きよせ、ブラウはメルヒェンの黄金の瞳を見つめ甘く囁いた。

「メルヒェン、愛しているよ」

そして優しく触れるだけのキスをすると、メルヒェンは恥ずかしそうにしつつもはにかんだ。
メルヒェンはブラウと繋いで手を引きながら言う。

「馬車を用意して、玄関で待たせておいてくれ」
「君もすぐに来るんだよ?」
「ブラウが僕の手を引いて守ってくれるんだろう?」

二人の話し声が遠ざかっていくのを聞きながら
イドルフリートは雪の上に落ちている薔薇の傍に片膝をつき、そっと薔薇を拾った。
愛を込めて贈った深紅の薔薇は雪にまみれてしまっている。
虚ろな瞳で深紅の花弁を見つめながら、悲しみの溢れた掠れる声で呟く。

「私は君に音楽を与え、そして君の歌に翼を与えてやった。それなのに君は私にどう報いた?」

脳裏に焼きついて離れないメルヒェンとブラウの口づけ。
憧れ焦がれ、何年も前からずっと見つめ続けてきた愛する人が穢されてしまった。
自分はメルヒェンの為だけに生きてきたというのに。
彼をプリマドンナへと導く為に歌を教え、裏から手を回し、人も殺した。
これだけしてやったというのにメルヒェンは自分を恐れた。
一度はこちらに向きかけた彼の愛が、あっという間にブラウに横から掻っ攫われた。

「…私を拒絶して裏切った」

メルヒェンの為だけに生きてきたというのに、彼はイドルフリートの気持ちを裏切ったのだ。
彼を至高の音楽の天使に育てたのはイドルフリートだというのに。

「あの男は君の声を聴いてたちまち恋に落ちた…」

そしてまるでそれが裏目に出るように
メルヒェンの歌を聴いたブラウは彼の虜になってしまった。
誰をも虜にする音楽の天使を育て上げた事が誇りだった。
誰からも羨まれる音楽の天使を自分だけのものにしたかったのだ。
イドルフリートはメルヒェンを信じていた。
愛情を注いで音楽を与えた自分を、メルヒェンは愛してくれるに違いないと信じていた。
だというのに、メルヒェンは自分への恩も忘れ、ブラウを選んだ。

「メルヒェン…!」

『誓って欲しい僕と分かち合うと、たった一つの愛、たった一つの人生を…』
作品名:こんなかんじ2 作家名:えだまめ