二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

水の器 鋼の翼3

INDEX|5ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 

 5.

 D-ホイール盗難未遂事件から、数日後のことである。
 材料調達の場に選んだゴミ捨て場で、レクスは困惑していた。
「材料が、ない……」
 三日前には確かにあったはずの、大量の鉄骨などの廃材。それが今日になって、綺麗さっぱり消え失せている。
 考えてみれば、廃材を有効利用しようとする人間が他にいてもおかしくなかった。あれだけの廃材を運び出す過程で、争いが起きなかったが不思議なくらいだった。
 レクスにしてみれば、困ったことになった。本日、彼は四本目の橋脚に本格的に取り組む予定だった。そのために大量の材料を必要としていたのだが、これでは作業に着手できない。
 材料がない以上、このままここにいても仕方がない。レクスは、残念そうに辺りを見渡した。
 とりあえず、他の場所を探そう。そう決めると、荷車を取り付けたD-ホイールに乗り、別のゴミ捨て場を目指したのだった。

 他の場所で材料を探索するのに、レクスは結構な時間を要した。しかも、満足に材料を収集することもままならなかった。
 時間ロスが痛いが、明日からB.A.D.中をくまなく探してみよう。レクスは、少ない材料を荷車に載せ、橋のところまで戻った。そのころには、日がやや西へと傾き出していた。
 行く手には、未だに橋とは言い難い四本の鉄塔が、みすぼらしく建っている。レクスにとっては毎度の光景だ。……たった一つの異変を除いては。
 橋のたもとに、何やら黒い影がうず高く積まれている。黒い山の所々から、鉄骨らしきものが出っ張っている。
 それを遠くから発見して、レクスは嫌な予感がした。まさか、自分の留守を狙って、何者かが橋を破壊しに来たのか、と。予想外の出来事で長らく目を離したことを、レクスは酷く悔やんだ。
 近づくにつれ、その正体ははっきりした。やはり、レクスが集めていたような廃材だ。D-ホイールを停めるや否や、レクスは廃材の山に駆け寄る。廃材は、レクスの肩くらいの高さまでに積み上がっていた。内容物は、主に鉄骨、鉄筋、それに木の板がほとんど。
「ん? こんな木の板、集めた覚えはないぞ?」
 恐る恐る確認した橋脚は、壊された個所もなく無事だ。
 レクスが探しに行った先に材料はなく、戻ってみれば、あれほど探し求めていた材料がどこからともなく現れたのだ。この奇妙さに、レクスは不気味ささえ感じた。
「おおーい!」
 遠くで、何やら呼びかける声がする。加えて、ずしゃずしゃごろごろと、砂の上で重いものが転がるような音が聞こえる。
 見ると、男たちが数名、レクスの方へとやって来ているところだった。その中には、あのゴマ髭と茶髪と若い男の三人組の姿もあった。にぎやかに談笑する一団の中心には、大きな荷車が三台。
 男たちが引いて来た荷車は、レクスの前で弾みをつけて停まった。
「よお。遅かったな!」
 先頭の荷車を引いていたゴマ髭の男が、取っ手を地面に下ろしてレクスに歩み寄る。
「さっきまでここにいなかったから、俺たち心配してたんだぞ」
「――これは、一体どういうことだ」
「あれを見な」
 男たちの荷車には、レクスが探し求めていた材料が、これでもかと言わんばかりの山盛りに積まれていた。橋のたもとにあるものと合わせれば、四本目の橋脚を通り越して、橋げたも造れそうな量だった。これほどの量の鉄骨や板だ、相当な重みがあっただろうことは、地に刻まれた轍の深さが物語っている。
「一人で、一々材料を取りに行くのも面倒だろ。――安心しな。運搬料金なんぞ取るつもりはねえからよ。正真正銘のタダだ、タダ」
「でも、あなたたちは、どうして」
「うーん、分かんねえかな」
 戸惑うレクスに、ゴマ髭が苦笑交じりにちっちっと指を振って答えた。 
「俺たちも手伝うって言ってんだよ。あんたを」
「……え」
 レクスは、思いがけない申し出に自分の耳を疑った。かけられた言葉の意味が、脳みそまで到達するのに少々の時間を要した。
 ゴマ髭の背後で、一緒に荷車を引いて来た男たちが口々に声をかけてきた。
「何が何でも橋の建設をやり遂げたいってのは、長いこと見ててよく分かった。あんたのあきらめの悪さにゃ負けたよ」
「このまま何もしなきゃ、ここで無意味に死んでくだけだ。そうなるくらいならいっそ、あんたがもたらす希望を信じてみるのも悪くない」    
「橋を完成させて、とっととこんなとこからおさらばしようぜ。もちろん、サテライトの住人全員でな」
「俺たちは、あんたに手を貸すぜ。俺たち自身の、自由のために」
 希望を得て、生気を取り戻した男たち。彼らの笑みと差し伸べられた手を前にしたレクスの視界が、白くとろけたように歪んだ。
「おーい、何泣いてんだよ。しっかりしろよ」
 茶髪の男がレクスの背後に回り込み、レクスの背をばしばしと叩いた。叩かれた背が、じんわりと痛い。
 指摘されて初めて、レクスは自分が涙を流しているのに気がついた。止めようにも、涙腺の機能が壊れてしまったのか、なかなか止まってはくれない。大粒の涙がレクスの頬を伝い落ち、地面へと滴り落ちる。
 夢も希望もないこの地で、やっと信じられるものに出会えたような気がする。集まってきた男たちに揉みくちゃにされながら、レクスはひたすらに笑い泣いていた。 

作品名:水の器 鋼の翼3 作家名:うるら