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rose'~prologue~

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エドから聞かされた内容に、頭の中が真っ白になったロイは、何をどうしてやればいいのか解らず狼狽えた。

勿論、目に見えるような解り易い狼狽え方はしなかったが。

いくらロイが女性の扱いには馴れているとは言え、こう言った事は解らない。

しかしエドをこのまま放って置く訳にも行かず、取り敢えずロイはエドに着替えと数枚の下着の替えを与え、そうして

ベッドへと連れて行った。

「大丈夫か?」

寝かせながらそう聞いてやると、エドは小さくこくりと頷き、薄く微笑って見せた。

微かに汗の滲んだそのその顔に、どうやら微熱があるようだと把握する。

ロイに心配を掛けまいとしてのその微笑みに、ロイの胸が締め付けられる。

何とかしてやりたくて、考えを廻らせる。

だが思い付くのは東の国の仕来りで、初潮の時には赤い米を炊くと言うような事しか思い浮かばない。

いや、そんな事はどうでもいいのだと考えを打ち消し、更に考える。

だがやはり、その先をどうすればいいのか解らず、仕方無く藁にも縋る思いでロイは司令部に連絡を取った。

「あぁ、すまないがホークアイ中尉を頼む。緊急を要するので大至急だ。」

電話の向こうで交換手がお待ち下さいと言う言葉を残してから数秒で、ホークアイは電話口に出た。

『何かありましたか?』

「大ありだ。」

ホークアイの言葉に間髪入れず、ロイは口を開いた。

「大至急私の家に来てくれ。詳しくはそれから話す。あぁ、それから持って来て欲しい物があるのだが…」

何ですか?と返され、一瞬言葉を切り、数秒間を置いて。

口籠もるように、小さく。

「……その……月に一度……女性が必要とする物だ……」

『…は?』

流石にホークアイも察する事が出来なかったらしく、聞き返されてしまった。

しかしロイも二度も同じ事は言えず、仕方が無いので外から掛け直すようホークアイに命じた。

電話を切り、大きく息を付いて。

ロイはエドの元へと急いだ。



「……と言う訳だ……」

漸く姿を見せたホークアイをエドの元へ連れて行き、ロイはエドの身に起こった事を説明した。

ホークアイは呆れたように大きく溜息を付き、持っていた荷物を降ろすとベッドに横になっているエドに歩み寄った。

そうしてエドの様子を伺うと、荷物の中から小さな包みを取り出す。

「大佐は席を外していて下さい。」

突然そう言われ、何故外さなければならないのだと言い掛けると、ホークアイの視線がロイを捕らえた。

「今のエドワードくんは女の子なのですよ?このままそこで観ているおつもりですか?」

その言葉に、ロイはいつもと勝手が違う事を思い出す。

「あ・・・ああ・・・すまない・・・」

仕方無くロイは、後をホークアイに任せ部屋を出た。

「大丈夫?」

ロイが部屋から出て行くと、ホークアイはエドに優しく言葉を掛けた。

「何か…お腹が重い感じがする…」

弱々しく言葉を紡ぎ出すエドの額の汗を拭いながら、ホークアイはエドに微笑んで見せた。

「心配しなくても大丈夫よ。初めてで驚いたでしょうけど。少し、起きられる?」

エドは小さく頷くと、ゆっくりと身体を動かし始めた。

「ぁ…」

不意に小さく事を漏らし、エドの動きが止まった。

そうして泣きそうな瞳でホークアイを見上げる。

「何か…ぺたぺたした感じで…気持ち悪い…」

その体制で固まったまま、動くに動けないと言った様子に、ホークアイは恐らく量が多くて漏れてしまったのだと把握した。

敷布団と密着した部分とその近辺が汗ばんだような、不快感。

動きたいのだが動けなくて、気分が滅入る。

女性なら誰でも経験はあるだろうが、エドに取っては何もかもが初めてで、戸惑う事だらけだ。

「大丈夫だから。」

安心させるように促し、エドを起き上がらせる。

エドの身を包んだ着衣は、下半身の辺りに赤い染みを作っていた。

ホークアイは手早く荷物の中から女性用の下着と着替えのパジャマと生理用品を出し、大判のバスタオルを2枚用意した。

「バスルームまで歩ける?」

「…うん…」

身体を起こし、ゆるゆるとベッドを降りたエドに、染みが隠れるようにバスタオルを羽織らせ、ホークアイはエドを支えるように

してバスルームへと向かった。

「脱いだ物を頂戴。清めている間に洗っておくから。一人で大丈夫ね?」

頷いたエドに笑みを返し、生理用品の使い方を教えて、ホークアイは一旦バスルームを後にした。

そうして汚れた着衣と、ベッドシーツを抱え、血液用の洗剤を持って、洗濯場へと向かう。

時間が経っていないお陰で、汚れはすぐに落ちそうだ。

ホークアイは手早く洗い物を済ませ、シーツで隠すように下着を干して、再びバスルームへと戻った。

丁度清め終わった所らしく、シャワーの音が止まる。

そうして細くドアが開き、そろりとエドが顔を覗かせた。

下着と生理用品を差し出してやると、エドは小さく「ありがとう」と紡ぎ、それを受け取った。

「使い方、大丈夫ね?」

顔を赤らめながら頷き、エドは再びドアの向こうに顔を引っ込め、そうして数分後、漸く姿を見せた。

「出来た?」

先程よりも幾分か明るめの表情で頷き、エドはホークアイから受け取ったパジャマに袖を通し始める。

着替え終わるのを待って、ホークアイは小さな包みをエドに手渡した。

「これは?」

「お塩よ。これでバスルームを清めるの。生理は不浄の物だから。」

蒔くだけでいいからと促され、エドは素直にバスルームに塩を蒔いた。

「女の人って大変なんだね…」

しみじみと紡ぎ、エドは残った塩をホークアイに手渡した。

「そうね。でも、これは命を生み出す為の大切な準備だから。」

「命を…生み出す為…」

人体錬成を試みた事のあるエドに取って、その言葉は重かった。

唇を噛み、項垂れる。

そんなエドの様子に、胸の内を察したホークアイは、エドを抱き寄せ優しく背を叩いた。

ふわり、と、微かに柔らかい香りがエドの鼻腔を擽る。

「複雑かも知れないけれど、あなたは良い経験をしているわ。その痛みを忘れては駄目よ。」

うっすらと涙を浮かべ、エドは小さく頷いた。

ホークアイの胸は、遠い日の母の温もりを思い出させた。



コンコン、とドアがノックされ、ホークアイが姿を現した。

「鋼のの具合はどうなんだ?」

落ち着かないようにアームチェアから腰を上げたロイは、すぐさまホークアイに言葉を投げた。

「大丈夫ですよ。」

言いながらロイの前を通り過ぎ、ソファーに荷物を降ろす。

「だがあんなに苦しんでいたのだぞ?」

荷物の整理を始めようとしたホークアイの動きが、ぴたりと止まった。

「女性にとっては当たり前の事です。」

微かに、ホークアイの口調が不機嫌な物になったような気がした。

「・・・何をそんなに怒っているのかね・・・」

「別に。」

てきぱきと整理をするホークアイの背を眺めながら、小さくロイは息を付いた。

急に呼び出した事を怒っているのだろうか?

それともエドがあんな風になってしまった事でだろうか?

まさか生理の知識が薄かったからなのか?
作品名:rose'~prologue~ 作家名:ゆの