rose'~prologue~
しかし男性の自分が生理に詳しい方が引くだろう。
「中尉・・・」
「何ですか?」
「・・・私は何か君を怒らせるような事を言ったのかね・・・?」
「心当たりがおありなんですか?」
その言葉に、ロイは何も言えなかった。
「・・・・・・いや・・・・・・」
それだけ零し、ロイは口を噤んだ。
ほんの少し、沈黙が流れた。
「・・・・・・その・・・君も・・・いや・・・皆あのようになるものなのかね・・・・・・?」
言いにくそうに口を開くロイに、ホークアイは手を止めた。
そうしてゆっくりとロイを振り返る。
「何も痛みを感じない場合もありますが、酷いと起き上がれない事もあります。腹痛だけで無く、貧血などもありますので。
個人差もありますがエドワードくんの場合、初めての事だと言う事と、急激な身体の変化でバランスが崩れたのでしょう。」
「そうか・・・」
半ば安心したように息を付き、ロイはソファーに腰を降ろした。
「女性と言う物は、大変なのだな・・・」
「あら、大佐は女性の事はお詳しいのではなかったのですか?」
「いくら私でもそこまでは解らん。それに私は今まで君のあんな様子を観た事が無い。」
「私は見せないようにしていますから。」
整理を終え、ホークアイは再びロイに向き直った。
「それでは私はこれで。エドワードくんには一応薬を渡してあります。また何か困った事があれば言って下さい。」
そう言い残し、ホークアイは部屋を後にした。
ホークアイの姿を見送り、ロイは深く、溜息を付いた。
「・・・・・・女性と言う物は、本当に凄い物だな・・・・・・」
そぅっ、と。
ドアを開き、ベッドに横たわるエドの様子を観ようと部屋に身を滑り込ませる。
音を立てないように静かにベッドに近寄れば、エドの規則正しい寝息がロイの耳に届いた。
先程ホークアイが薬を渡したと言っていた。
恐らくその薬で、眠りに落ちたのだろう。
最初の時よりもかなり顔色が回復しているのを確認し、ほっとする。
一息付いて、ベッドの横の椅子に腰を降ろし、ロイはエドの寝顔を見詰めた。
「良かった・・・」
別に、病気でも何でも無いと解ってはいても、安堵してしまう。
何だか娘を持つ父親のようだとふと思い、その自分の考えを打ち消すように首を横に振る。
「・・・何を考えているのだ・・・」
くしゃっ、と髪をかき上げ、馬鹿馬鹿しいと息を付く。
だがしかし、これで本当にエドが完全な女性体となった事が証明された。
こうなれば確実にでエドを少女として扱わなければならない。
自分だけが、把握しているのでは無く、司令部の者達にも知らせて置かなければなるまい。
何かあった時の為に。
まぁ、今の所はホークアイが把握してくれているので問題は無いが。
「・・・大佐・・・?」
考えを廻らせていると、ベッドから小さな声が聞こえた。
観ると、エドがうっすらと瞳を開き、ロイを見上げている。
「ごめん・・・」
申し訳無さそうに紡がれた言葉に、柔らかな笑みを漏らす。
「何を謝る事がある。」
「だって・・・俺・・・急にこんな風になって・・・大佐・・・驚いただろ・・・?」
「気にするな。」
言って、身を屈めたロイは、さくらんぼのようなエドの唇を啄んだ。
そうしてほんの少し唇を離して。
「それよりも、君の方が戸惑っただろう?何しろ全てが初めての事だったのだから。それなのに、
私は何の役にも立てなくて・・・悪かったな・・・」
ロイの言葉に、エドはゆるゆると首を横に振った。
「そんな事・・・無い・・・」
ほんの少し、掠れた声。
「大佐は、ちゃんと俺の傍に居てくれるから・・・」
それだけで、いいのだと。
エドはそう、ロイに言った。
「当たり前だろう?君は、私の一番の宝物なのだから。どんな時も、君の傍に居るさ。」
その言葉に、エドの顔が綻ぶ。
「体調が回復したら、一緒に買い物に行こうか。新しい君の服を揃えなければな。」
エドは「うん」と小さく零しながら、こくり、と頷いた。
5日後。
漸く体調が戻ったエドを連れ、ロイは街へ出た。
必要な物を買い揃える為にあちこちの店を見て回る度に、エドはロイの後ろに隠れるように付いて回る。
「君の買い物なんだぞ?隠れていてどうする。」
ロイがそう言うと、エドは小さく「だって…」と紡ぎ、困ったようにロイを見上げた。
「…俺…こんな所…初めてだし…」
真横に置いてあるランジェリーにちらりと視線を送り、恥ずかしそうに俯く。
「私だって初めてだぞ?」
実際ロイだって、出来る事なら早々に立ち去りたいのだ。
先程から店員や客の好奇の視線が痛い。
まぁまだ軍服で無いだけマシだが。
一向に動こうとしないエドに、仕方無くロイは傍に居た店員に声を掛けた。
「すまないがこの子に何着か見繕ってやってくれないか?」
店員はにこやかに「畏まりました」と言うと、エドにサイズを聞いた。
「え…あ…解らない…です…」
「それじゃ、測らせてくださいね。」
店員はメジャーを出すと、エドの上着の下に手を潜らせ、手早く採寸を始めた。
「着痩せするタイプなんですね。観た感じよりも結構大きいわ。」
そう言ってにっこりと微笑まれ、エドは恥ずかしそうに視線を落とした。
ほう…そうなのか…
口には出さず、ロイは胸の中で呟いた。
それはなかなか楽しみだとほくそ笑む。
そんなロイの表情に気付いたエドが、じっとりと見上げる。
何考えてんだよと、瞳が言っている。
わざとにっこりと笑みを返してやれば、エドは頬を染めて視線を逸らした。
可愛いなぁv
エドの表情ひとつひとつに胸を躍らせながら、ロイは大人しく採寸されるエドを眺める。
下着の次は洋服だな。やはりワンピースがいいな。色は・・・そうだ、薄いブルーがいい。あぁでも、白もいいな。
清潔感があっていい感じだ。ノースリーブでストローハットなんかを被らせたら言う事無いな。しかしミニもいい。
ミニだと服を着たまま出来るじゃないか。執務室で情事と言うのも中々良い。
・・・・・・何時の間にか。
ロイは桃色に染まった妄想に溺れ、自分の世界に入ってしまっていた。
あれやこれやと考えを廻らせているうちに、エドの採寸が終わり、店員がエドに合うサイズの下着を数点選んで
来た。
「この辺りなど宜しいかと思いますが。どうなさいますか?」
そう聞かれ、エドは再び困ったようにロイを見上げた。
「替えが要るだろう。全部買おう。」
「有難うございます。」
ロイの言葉に、店員は深々と頭を下げた。
会計を済ませ、店を出る。
「次は洋服だな。私が君にぴったりなのを選んでやろう。」
にこにこしながら言うロイに、エドはほんの少しの不安を覚えながらも、小さく頷いた。
あれから散々色々な店を回り、エドの衣服や身の回りの物を買ったロイは、家に帰るよりも近いからと、
大きな荷物を抱えたまま、エドと共に司令部へと向かった。
「ふぅ。」
ソファーに腰掛け、大きく息を付く。
作品名:rose'~prologue~ 作家名:ゆの