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rose'~prologue~

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そんなロイの横に、エドも倣うように腰を降ろし、脇に置かれた荷物の山に視線を留める。

「ねぇ大佐・・・」

ぽつり、と、エドが口を開いた。

「何で、ここへ来たの?」

エドにしてみれば、極力司令部に来るのは控えたかった。

女性化したその身体を、晒す事を避けたかったのだ。

しかしロイは、エドとは全く逆で。

ハボック達にエドの事を伝える為もあったが、それよりも見せびらかしたかったのだ。

「いけないかね?」

「いけなくは・・・無い・・・けど・・・」

もじもじとするエドに、ロイは早く着替えさせたくて仕方が無い。

「そんな事よりも、着替えなさい。いい加減暑いだろう?」

いつもの服を着ているエドにそう促せば、エドはやはり気が進まないと言った様に荷物を観た。

「折角私が君の為に選んだのだぞ?私の為に、着てはくれないのか?」

「・・・っ・・・」

ロイの言葉に、エドは仕方無く紙袋を引っ張り出す。

「ちゃんと下着も、替えなさい。」

いいね、と言い残し、ロイは一旦執務室を出た。

自分が居ては、着替えにくいだろうからと言う配慮だった。

「あれ?」

ドアを閉めた時、不意に声がした。

「大佐、非番じゃなかったんですか?」

視線を移せば、ハボックがそこに立っていた。

「ちょっと用事があってな。あぁ、それよりも丁度良かった。言っておかなければならん事があるんだ。」

「俺にスか?」

ああ、と頷き、手間が省けたと紡ぎながらロイはドアの向こうをほんの少し気にする素振りを見せる。

その様子が何処か嬉しそうに見えて、ハボックは直感的にエド絡みの事だなと把握する。

そわそわと、まるで何かを待っているような子供のようなロイの様子に。

また厄介な事で無ければいいけどと、胸の中で息を付き、「はぁ」と短く言葉を零した。

「取り敢えず皆を連れて執務室へ来るように。話はそれからだ。」

「ッス。」

この様子だと至急の方がいいんだろうな。

そんな事を思いながら、ハボックはその場を離れた。

ハボックの背を見送り、ロイはドア越しに声を掛けた。

「もういいかね?」

ほんの少しして、「もう少し・・・」と返された言葉に、ロイは待ち遠しそうに時計を見た。

どの服を着てくれるのだろうかと、心を躍らせながら。


「失礼します。」

ロイに言われた通り、皆を引き連れ執務室のドアを潜ったハボックは。

ソファーの横に置かれた買い物袋の山に「何だこりゃ」と、胸の中で声を上げた。

明らかに女性物のそれと解る、口の開いた買い物袋。

そうしてソファーには、こちらに背を向け、掛けている女性の姿。

薄いブルーのワンピースの裾が、ひらりと窓から入る風に靡く。

一瞬エドかと思ったが、エドにしては線が細い。

しかも金糸のような髪の掛かった右肩越しに見える胸元は、ふっくらとしており、瑞々しい肌が眩しく見えた。

こちらに背を向けている所為で顔は見えなかったが、ロイの事だ。

美しいに違い無い。

はぁ、と、ハボックは深く息を付く。

とうとう執務室にまで女を連れ込んだかと思い、後ろをちらりと観れば、ブレダやフュリー、ファルマンも、同じ様な

反応を見せていた。

唯一人、ホークアイだけは普段と変わらない様子だったが。

エドに見付かればまた修羅場なんじゃねぇのかと思いながら、正面のデスクのロイに向き直る。

何処か嬉しそうな表情は先程とは変わらず、それ所かまるで早く宝物を自慢したくて仕方が無いと言ったようなロイの

表情に、恐らく詰まらない事に付き合わされるのだろうと、ハボックは思った。

いい加減馴れているとは言え、何とかならないのかと内心思う。

「皆に伝えておきたい事がある。」

短く紡ぎ、ロイは椅子から立ち上がった。

「ヒューズの所為でちょっと厄介な事が起こってしまってな。普通にしている分には問題無いのだが、これから先、

何かと不都合な事も起こり得る可能性もある。そこで皆にも把握して置いて欲しいのだ。」

何の把握だよ、と、ハボックは胸の中で突っ込む。

「あの。」

ハボックの後ろでフュリーが声を発した。

「それって、そちらの方に関係ある事なんですか?」

良く聞けたなお前・・・

様子を伺うようにロイに視線を向けてみれば、ロイはにっこりと微笑って「その通りだ」と紡いだ。

あれ?

何と無く、力が抜ける。

一体どう言う事だ?

「おいで。」

不意にロイが彼女を呼び、その声に小さな体が反応する。

ふわり、と舞うような柔らかな動きに、一瞬目を奪われた。

ふと。

見覚えのある物が、見えた。

・・・・・・あれ・・・・・・?

その姿にそぐわない、機械鎧の右腕と、左脚。

しかしその胸元はふっくらとしていて。

え・・・ちょっと待ってくれ・・・

まさか・・・

訳も無く、どくどくと鼓動が早くなる。

そうしてロイの横に並び、ゆっくりと顔を上げられて。

ちょっと・・・待・・・

複雑そうな視線が上げられ、金色の瞳がハボック達を捕らえた。

「エ・・・エドぉ?!」

思わずハボックは、大声で叫んでいた。




「どうだよありゃ…」

煙草をくわえたまま、ハボックがぽつりと言葉を零した。

先程執務室で複雑そうに自分達に視線を流したエドを、思い出す。

薄いブルーの、ふわりとした花柄のワンピースに身を包み、夏だと言うのに透き通るような白い肌。

三つ編みを解いた、肩より少し下まである金糸のようなさらさらの髪。

それは窓からの光を受けてきらきらと輝いており、髪に天使の輪を作っていた。

風に乗って流れて来た優しい花の香りに、ハボックはくらりと軽い目眩を覚えた。

それはハボック以外の者も同じであったらしく、エドの少女特有の初々しさに皆がエドに釘付けになっていた。

「ありゃ大佐も嬉しいだろうな。」

ぱちん、と、升目の引かれた盤に黒い石を置いて、ブレダが言った。

「案外大佐がわざとヒューズ中佐に頼んで見つけさせたか作らせたかした薬なんじゃねえの?」

「いくら何でもそれは無いでしょう。」

ブレダの言葉を、ファルマンが否定する。

「聞く所によるとその薬は賢者の石の出来損ないと言う話です。出来損ないの存在はリオールを始め各地で

確認されていますが、今回のような付加を持つ物はありませんし、だからと言って賢者の石の錬成方法も

解っていないのに、そんな都合の良い物が作れる筈がありません。作れるとしたら、そっちの方がある意味

凄い事ですよ。」

「そうだよなぁ・・・やっぱそうか…」

うーん、と唸りながら、ブレダは再びぱちん、と、今度は白い石を盤に置いた。

「大体、さっきの呼び出しって、あれ何だったんでしょうか?薬の所為で性別が転換したと言う事の報告なら、

何もあんなに改まって呼び出さなくても・・・」

「そりゃお前。」

ファルマンの言葉を遮るように、ハボックが口を開いた。

「ありゃ、釘を刺したんだよ。」

「釘?」

ハボックの言葉の意味を理解出来なかったファルマンが、聞き返す。

ふぅっ、と、煙を吐き、長くなった灰を灰皿に落として。
作品名:rose'~prologue~ 作家名:ゆの