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世の中、何があるのか分からない

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それをかわすように身を翻すと、ハリーのからだが自然とターンをした。

クルリと世界が回る。

「離せ!下ろせ!」と暴れるたびに、右へ左へとクルクル回るのは、なんだか、段々と楽しくなってきた。
パーティで飲んだアルコールがこの連続回転のせいで、全身に回ったせいだろう。

面白い!
楽しい!
蹴り上げてくる、暴れ馬のようなドラコをからかうのは、なんだか痛快で、回る螺旋のような回転は、まるでダンスのようだ。

ハリーは完全に酔っ払っているようだ。
どこからか、微かに陽気なクリスマスソングが流れてくる。
なんだかむしょうに笑いたくなってきた。

だから思わず叫んだ。
「メリー、クリスマス!」

「なにが、クリスマスだ!いいかげんにしろ、この酔っ払い!」
ドラコが真っ赤な顔で声高に応戦する。

気に入らない相手に、気に入らないことをするのは、やっぱり楽しかった。
意地悪が楽しい。
止められるわけがない。

「やだね!」
まるで子供のような返事をしてヘラヘラ笑って、ステップを踏んで、ついでに開いている窓へと向かう。

何度もグルグルと回っていると、すごく暑くなってきたし、ここは外へでも出て、少し雪でも被って……
などと考えたハリーが、窓から外へ出ようとすると、ドラコが「やめろーーっ!」と、大声でストップをかけた。

「ちょっ、ちょっとうるさいよ、マルフォイ!耳元で叫ばないで欲しいんだけど……。あれ?あれれれ?!!」
異様に床がツルツルするぞ?
はて、野外にスケートリンクなんかあったっけ?
などと思ったときには遅かった。

ハリーはドラコを抱えたまま、激しく仰向けにひっくり返った。
ドシーンという音とともに、派手に腰を強打する。

まだ自分ひとりだったらマシなものを、ドラコを抱えていたことが、余計な重さが打ち付けた腰にかかった。
ぐきっという鈍い音がかすかにしたような……?

「ああっ、いたい!腰が痛い」
ハリーが悲痛な声を上げた。

「だから出るなと言ったのに。ここは凍っていたんだからな!」
「もしかして、君が捻挫したのは、このツルツルの大理石のせい?」
不本意そうな顔で、ドラコがうなずく。

「だったら言ってよ、先に」
「言ったじゃないか、何度も止めろって!」
「一番大切なことを、先に言わないほうが悪い。氷が張ってるなんて言わなかったじゃないか。マルフォイが悪い!」
「なにを!そんな勝手なセリフ」

「君が悪い」
「君のほうこそ」などと言い合っているうちに、ふたりとも大きなくしゃみをした。
途端にブルッとからだを震わせる。

ゴホンと正すようにドラコが咳払いをする。
「とにかく、このままだと、ふたりとも確実に風邪をひくぞ。とりあえず、室内に入らないと……」
「ああ、ムリ!腰を強打したから動けない。マルフォイ、助けて」
「僕だって足をひねっているし、無理だ」
「だったらどうするんだよ。ここでふたり仲良く凍死するのかよ」
「バカ言うな!さっさとお前の杖を出せ」
「持ってない!さっき取り上げられた、ハーマイオニーに。自分は酒に酔うといつも洒落にならない、とんでもない魔法を繰り出すらしくて、飲酒運転お断りみたいに、飲酒したら監視役の彼女に魔法の杖を取り上げられるんだ」

「──バッ、バカかっ!なんだって!だったらどうするんだよ?」
「マルフォイの杖は?君は持っているだろ?」
「……持ってはいるけど……。さっき転んだ拍子に――」
バツが悪そうな顔をして、尻のポケットから杖を引き抜くと、それは見事に真っ二つに折れていた。

「なんで、そんなボロイ杖を使っているんだよ」
「ポロなんて、失礼なことを言うな!これは立派な由緒ただしいビンテージ品だ」
「ただの古いシケた杖じゃないか。折れて使えないなんて……。どうするんだよ」
「どうなるんだ……」
ふたりで身近に顔を寄せて、お互いに至近距離で、じっと見詰め合う。

別に好きあって仲良く寄り添っているわけでもなくて、ただ抱き上げたまま転んだので、そんな形になっていた。
転んで腰を打って動けないハリーと、その上で捻挫して、これまた動けないドラコが重なりあっているだけだ。
だけど見ようによっては、雪と氷の上で、情熱的なラブシーンを交わしているようにも、見えなくはない。

「どうする?」
「なんとかしろ」
などと言い合っていてもらちがあかない。
しかも、戸外はとても寒い。

吐いた息が真っ白で、鼻が寒さで赤くなってきた。
降り続いている雪が、ドラコのまつげに舞い降りるを見て、そのまつげの長さに、ハリーは驚く。
こんなに至近距離なのに、不思議と嫌悪感は浮かんでこなかった。

相手の存在が嫌ではない意味が知りたくて、じっと見つめると、ドラコは「なんだ?」という胡散臭そうな顔で、ハリーを見返してくる。
漏れて、光を弾く、ドラコの銀色の瞳が、とてもきれいだった。

――そういえば、キスするにはちょうどいい距離だよなぁ……
などと思って、ついムードに流されて、無意識に顔を寄せていくと、触れ合う直前で、ドラコが相手に向かって、大きくくしゃみをした。
ドラコは赤くなった鼻をこすってすすり上げつつ、「すまない」と律儀に謝る。
ハリーは目を瞬かせると、たまらず噴出し、大笑いをした。

楽しい気分のまま、ハリーの頭に何かがひらめいたようだ。
「あっ、そうだ!思い出した!ポートキーなら持っているんだったけ」
「それを早く言えよ。さっさと使え!ここにこのままいたら、肺炎になるぞ」
「分かった!」
言うが早いか、ハリーは自分のカフスボタンのひとつに触れた途端に、世界がグルグルと引っ張られるように回転して、すぐに世界が変わり、バタンとふたりして落ちた。

落ちたはずなのに、痛くはない。
むしろふたりの重みを受け止めて、床がフワフワと揺れた。

――明かりがなくて、真っ暗だ。

「いったい、ここはどこだ?」
「部屋だ。僕の部屋。このボタンひとつで、ベッドに直行できるんだ。これを持っていたら、安心。いくら飲んでいても、すぐにベッドにありつくことが出来るからね。もう道端で大の字になって寝てしまって、朝起きて、物盗りに財布すられていたさいうことなくて、特許申請をしたいくらいの、発明品なんだ!」
「とりあえず、下らないことをウダウダ言わずに、さっさと明かりをつけろ」
「ムリ。もう眠たくて、痛くて、動けない。しかもスペアの杖はクローゼットだし」
「だったら、僕が呪文を」
「ああ出来ないよ。だって、ここは僕の家だもん。僕の声にしか反応しないようにしているんだ。セキュリティーを頑丈にするためにね」

「何がセキュリティーだ、道で酔っ払って、グーグー寝ていた奴が」
「まぁ、何度もそれをやっちゃったから、魔法省のほうから寝ちゃダメっていうお達しが出たんだ。外で寝ると違反切符まで切られるからね。だから止めたんだ」

「大人になっただろ」などと言いながら、ニャムニャムとご機嫌で眠りにつこうとする。
「おい、起きろよ。どうにかしろ」
「むりー……」
言いながら、ハリーは大きくあくびをしたようだ。

「僕は足が痛いんだ」
「僕だって腰が痛いし、同じだ」
「治療をしなきゃ」
「イタイのイタイの飛んでゆけ~」