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不快指数上昇

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「何でって・・そりゃ」
「財政力をよく考えてみるんだな。この国の力で、あれだけの武器と戦闘機が持てるとでも思うか?」
「―― あ 」
「『こんな国』は、あの最新兵器を製造保有してる国と裏で取り引きしてる国だ。だからこの世界の人間もここまで手をだすか迷う」
「――・・・みんな、やっかいだから、手を出さないんじゃなくて、バックがでかすぎるから、手をださないのか・・・」
 自分の認識の甘さに、思わずため息がでる。
「ところが、そのバックの存在を、この国は邪魔だと思いはじめてるのが今だ。これだけの武力を持ってんだから、てめえのやりたいようにしたいわけだ」
「――そこに、つけこんだな?」
「――――」
 返事も何もないが、にやけている気配。
「おれたちも、いいかげん本体が邪魔になった。協定をむすんでお互いを助ける。ここだけの話だ。本体のボスを騙して連れてくる。頭の弱い男だからきっと腹の立つ態度を示す。そうしたら、さっさとヤッちまっていい」
「・・・そう、伝えてあったのか・・」
 今更ながら、がくりとする。
 いらだったような舌打ちを返された。
「ったく。腹が立っても動かねえようあれだけ言っておいたってのに」
 飛行機の中で言い聞かされたそれを、決して忘れていたわけではない。
「だったらはっきりそう説明しろよ!理由も聞かされずにそんなこと言われても、やっぱ腹がたったらつい・・ってか、ちょっと待て。『頭が弱い』ってどうい、う、」
 その、腹の立った『頭の弱いボス』を、まっさきに攻撃した男が、早くどけ、という意味で足をゆすった。
「・・・ごめん、今どくよ。でもさあ、おまえっんが!」
 降りようとした二の腕をつかまれてひっぱられ、顔面を打ちつけたのは、男の腹だろうか。
 びくともしない硬い身体だ。こんちくしょう。
「お、おまえだって、そうとう本気で攻撃してきたろ?」
「むこうは挑発にのってまだ抜くか抜かないかのうちに、てめえがテーブル大破させたからだろうが」
「だからって、おまえがいきなり銃構えるか?」
 その後は、まあ、お決まりの悪口の言い合いで、お定まりの本気対決になだれ込むのに、まわりがそのまま巻き込まれるというコースへ・・・。
 どさくさにまぎれて、結局、協定を結ぶはずだった男たちと施設を、大破させてきたわけで・・・・。
 だが、この男が言ったとおり、それでこの国の現状が変わるわけではない。今回はこちらのクーデターに巻き込まれたというかたちで、むこうが消滅したが、同じような組織はこの国ならば、すぐにたちあがるだろう。
「いいか。次にこの国でてめえが暴れていいのは、おれが指図したときだ。これ以上てめえが計画壊すような何かやりやがったら、ほんとうにまたクーデター計画すんぞ」
「う、それを阻止するまでの破壊行為を考えると、素直に返事するしかない気がする・・・」
「協定を結んで、もっとこっちに抱え込んで、根元のほうまでおれたちの手が届くあたりになったら、 ―――好きにしろ」
「・・・それって・・・」
「先にしぼりとれるだけのもんを取ってからだ。同じ失敗しやがったら、今度こそカっ消す」
「・・はい・・」
 思わず緩んだ顔を、すぐそばの男に見られなくてよかったと思う。
 見えていたら、すでにグーで殴られているはずだ。
 相手の気配が、珍しく静かなままなのをいいことに、少し、お近づきになることにした。
 できれば、今回招いた結果に対し、この男のご機嫌を少しでもアゲておきたい。
 なにしろ、この傷を負ったのは・・・、 
            ―――おれのせいでありまして・・・。
「・・・あ、のさ、まだ、血、止まらない?」
「 ――さあな」
 ぺたぺたと、またがった腹を押しながら、移動。内臓が入ってんのかわからないほど、硬く厚い筋肉で出来ているそこから、上へとたどる。
 男は何もいわないが、怒ってはいないようだ。
 はおっているシャツの内側へ手をいれ、左の胸へ、そっと手をあてる。
 ガーゼとテーピングの感触。
 やはり、血の匂いがまだ濃い。
 そろそろまた、取り替えたほうがいいかもしれない。
 手をかけようとしたら、指先をつかまれる。
 まだ、いいということか。
「 ―――ごめん・・」
「このカス」
「だって、・・・・まさか・・・まさかおまえが、おれの銃弾受けるなんて!!考えられないだろ!?」
「てめえがおれより実力があるようにしねえと、クーデター失敗が嘘くせえだろ」
 その顔は、みなくともわかる馬鹿にした声。
「だからっておまえ・・、おれは本当に心臓止まるかとおもった・・」
 
 自分の撃った弾が、この男に当たるなどと ――――。

 もちろん、当たって飛んだ血に焦った。
 だが、急所に当たっているとは、すこしも思いはしなかった。
 それよりも、後に待つ、この男からの『仕返し』に、血の気が引いた。
 実際に、当たったのを見た当人が発した『ぎゃああああああ!!あ、あ、あた、あた、あたったあああああ!!ひいいいいいすみません!ごめんなさい!当てようと思ったんだけどなんで当たるんだばかやろう!!』という矛盾したさけびを、まわりで倒れた人間は聞かされていた。
  
「当たったより、てめえの手当てのほうがひでえ」
「そんな痛かった?・・ごめんなさい・・」
 作戦が終わったら、とっとと隣の国に待機させた専用機で帰るはずだった。
 ところが、裏組織であると同時に、国のトップである組織を壊滅させられたこの国も、黙ってはいなかった。
 とにかくふたりのボス様が囮になって、部下を先に移動。
 そんなとき、近くで大型ハリケーン発生。
 しかたなく、部下たちを先に帰らせることにしたのだ。
 町をはずれれば、まだ原生林が残る国だ。
 念のためで山の近くに作っておいた、みかけはボロい、質の高い小屋が、役にたった。
 箱はあっても中身はほとんど整えなかったそこで、黒いボス様がとっとと脱いで、「はやくとれ」、というその顔に、脂汗が浮かぶのを見て、初めて事の重大さに気付いた。
 左胸。
 青くなるこちらへ、自己診断で、心臓及び重要な血管神経は無事、と男が申告。
 だからてめえ、まちがっても傷つけるなよ、と、ナイフを渡された。
 そりゃ、こういう場面に遭うのは初めてじゃないけれど、でも、こんなデリケートな場所は初めてでして ――うんぬん、は通じなかった。
 医療用品など置いてはおらず、すぐにそのアルコール度数の高い酒を持ち出した。
 頼りになる部下はいない。
 この辺のモグリにみせたら、すぐに周りの知るとことなる。
  
  ―――おれがやるしか、ないじゃん・・・

 どうにかお得意のあきらめにもっていき、この手でこの男の身体をえぐり、弾をとりだし、針と糸で傷を縫った。

「いたい?」
「―――いたくねえと思うか?」
「だよなあ・・・で、さあ・・その・・・、これの・・・埋め合わせなんだけど・・・」
「なめろ」
「 ―――― 」
「なに、いまさら固まってやがる」
「い、いまさらって、おまえ!言い方が卑猥すぎんだよ」
「はあ?卑猥もなにも」
「わかった。いいか?動くなよ。今から、 ―――なめるから」
 
作品名:不快指数上昇 作家名:シチ