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ラブ

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男はいつもの調子でぺらぺらぺらぺらと、何度も練習し反芻しつづけていたかのような、演説を思わす口振りで、以上のことを口にした。シズちゃん、と気安く呼ばれているもう一人の男、すなわち平和島静雄自身は、その言葉の意味を咀嚼し理解に至り、嚥下する手前までいくのに、ゆうに一分ほどを費やしただろう。
未来のはなし、この男が、自分に、未来の話をしている。その後のガキだなんだの恐ろしい例え話よりかよっぽど、そちらの事実の方が、喉元から食道までゆっくり撫でられるかのような、決定的だが緩慢な気持ち悪さがあった。折原臨也という男が、一度だって自分との未来を想像し、そしてあろうことか妄想という形で創造してしまった事実が、唐突に突きつけられている。
なんの知らせもなく降りだす無遠慮な雨のように、地面にはパタパタと、水滴が楕円を描いていた。
それが集合して、凝結を手前にゆるく湖面をつくるのはあっという間であった。目を凝らしてみれば、それはギリギリのラインで彩度を保っている、血液だということがわかる。勿論元の持ち主は平和島、当人のものであるが、なにせ先程浴びせられた、言葉による攻撃が脳髄を打ち抜いてしまったらしい。
今尚止まることを知らないその体液など、さほど気にならず、まるで自分の意思とは離れたところで、口が開いた。

「消えろ」

まるで小学生が、精一杯の虚勢で吐き出した言葉――とは、当然、意味合いも材質もまったく違う。かけ離れている。対極にあると言っても過言ではなかろう。その一言には、未来永劫消えることのない憎悪と、嫌悪と、そして一番に殺意が、禍々しいまでに込められていた。本来の平和島ならば、縦横無尽に敷き詰められたコンクリートの建築物を跡形もなく破壊することも、いつも通り持ちあげ投げつけてしまうことも可能であるはずだった。が、しかし、今現在、それが許される媒体がない。まるで計算済みとも言わんばかりに、手が届く範囲のビルには人間が住んでいるであろう気配があったのだ。そもそも暴力を厭うている人間が、まさか人間が住んでいるそれを破壊し、投げつけるなどということは出来るはずもない。(……今まで何度か過ちをおかしてきたことは、この時分、必要のない情報である。)
自分の、こめかみの部分に、血管がうきあがる。メキ、という、まるで人体から鳴りだすそれとは考えられない音が耳元に届く。その、当然のように見てとれる変化を、折原はまるで意に介さずに、更にむしろ先程よりよっぽど大仰に謳った。まるでBGMには軽快な音楽でも聴こえているのかと思うほど、その声は高らかであり、なににも囚われない。

「その頭は俺がやったんじゃないよ? あ! 間接的には俺がやったのかもしれないけど、それは必然と偶然が重なりあって、残念ながら不幸中の不幸ということでシズちゃんに降りかかってしまったものだから、もしかしたら俺じゃなくてシズちゃんだってもともとは関与していたものかもしれない。どう? その傷受けた時のこと、覚えてる?」
「……さっさと消えろ、って言ってんのが、わかんねえのか」
「え? ああ、わからないね、ちっとも」

分かりやすく、知りやすい風景が在る。
西口から左手に進めば嫌でも伺える、極彩色のネオン、まるで粗大ゴミのように生きている人間が、折原と、平和島を照らす。狭すぎる路地は、一触即発を演出する舞台装置としては、出来過ぎているのではないかとすら思う。
ああ、当然だ、この場所は折原が選び、導いた場所なのだから。
一向に、動く気配のない空気に、平和島の視線は数瞬、ゆるりと折原から外れた。今まで、この男を前にして一度だって、そのようなことはしたことがなかったし、するはずがなかった。しかし今は違う。折原が今からまた、何を言い出すかが分からない、言い知れぬ不気味さを感じていたのだ。出来ればもうこれ以上のことを、言って欲しくはなかった。理屈屁理屈の鬱陶しさと、その裏側にある暴力的な一面は、理解するまでがひどく面倒で億劫で、何故そんなに遠回りなことをするのかが、ちっとも理解出来ない。理解するに値しないと言った方が近いかもしれない。とにかく、理解に及ばないのだ。
目を離すことはもう、戦闘を放棄していると見なされても仕方のない行為であったが、それで折原自身が興冷めすれば問題はない。臨也、と、何故か名を呼んでしまう男。臨也。気味の悪い、理解の出来ない、尋常ではない男。
まるで今を生きる男が、恐ろしく下らない、その”未来”なぞに、思いを馳せている姿は、想像するだけで虫唾が走る。
作品名:ラブ 作家名:knm/lily