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ソードマンの独白-7.5 神のみぞ知る

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 幾度かのはずれを経て、おれたちはあたりに出会った。ばさばさと枝が雪の重さから開放される音があったかと思うと、小枝が折れる音が続く。次の瞬間、思いのほかの素早さで、幾体もの両手に余るほどに大きなやどかりに行く手をふさがれた。
 反射的にどまんなかにとびこみたくなったけど、深呼吸一つ分の間をおいた。その間に、パラディンが分厚い盾を手に前へと出る。目の焦点をぼかすようにして視界を広く取る。ダークハンターが用心深く斜め後ろ辺りについてる。メディックとアルケミストをカバーする位置だ。背後に脅威の気配はない。そんな大雑把な確認をすませ、パラディンに続いて前に出ようと膝を緩める。
「――!」
 名を呼ばれた。そんな場合じゃないのに、喉元を抑えられたみたいに息が詰まった。ほんの一瞬の間に、駄々っ子みたいな感情が暴れそうになる。そんな場合じゃない。無理やり全部おさえつけて、おれは背後を伺った。
 アルケミストがまっすぐに右腕をつきだしていた。左手は腕のあたりに添えられている。既に彼の関心はおれから離れているようにも見えた。他の階層ならば、彼が何を求めているのか、もう一言二言情報が欲しいところだろう。けれど、今、おれがいるのは六花氷樹海だ。
 パラディンの横を抜けて前に出るという方針を変更する。戦斧を構え、全身の感覚を研ぎ澄ませて背後の気配を探る。一ヶ月の間に身に付けた、彼が術開放に必要とするであろう時間を予測する。必要不要って言うなら、すぐかな。でも、前にはパラディンがいる。ならば。心の中一定のリズムでカウントをとりはじめる。メディックが射線をあけるようにと声を上げるのを遠く聞いた。
 とびかかってきたヤドカリを剣を抜かず盾でいなしている。そんなパラディンの姿が、とてもゆっくりに見えた。彼はその勢いのまま、斜め前――魔物の背後へと抜けようとしている。もうすぐカウントが終わる。彼の声、そしてカチリという聞こえるはずのない音を聞いた気がした。素直に従って、地面を蹴る。次の瞬間、目の前に焔の花が咲いた。
 戦斧をどうふりおろすかなんて、意識する必要はぜんぜんなかった。まるで、正しい軌跡が定められてるみたいに身体が動く。目の前のものを斬るというよりは叩き潰すというほうが正しいそれが、嘘みたいに軽やかに舞った。
 息を吐いたころには、すべてが終わっていた。元気いっぱいだったヤドカリたちは、粉々の破片になって地面に散らばっている。確認するまでもないくらいに安全だった。
 戦斧をおさめ、片手をあげて背後に合図を送る。軽く肩を叩かれた。パラディンだった。小さく頷いて、樹海の恵みが(なにか)ないかと辺りを見回した。



 幾度か繰り返した。彼が名前を呼ぶ以外は、探索の間も含めて一言も口はきかなかったけど、タイミングを外すことは一回もなかったし、要求を勘違いすることもなかった。六花氷樹海だからっていうのは大きいと思う。
 心地いい疲れと一緒に世界樹を出て、宿へと帰る。今日はずいぶん歩いたとか、魔界の邪竜がやっぱり復活してるとか、結局エスバットを壊滅させた魔物っていうのはどれくらいヤバかったのかとか。もしくは、交易所の新しい武器を見たかとか、鋼の棘魚亭のオヤジのオススメっていうのはズルくないかとか。そんなある意味どうでもいい話をしながらの道行だった。
 不意に、頭になにかが乗った。パラディン――じゃない。メディックでもない。そのまま、少し乱暴に髪をかきまわされた。
 アルケミストだった。彼はこちらを一瞥もしないままに、てのひらを引いた。そして、メディックに声をかけた。
「――あ」
 食欲がないから先に行く、と。そう言って彼はメディックの返事を待とうとせずに、さっさと皆のもとを離れる。
 追いかけなくてはいけない、と。そんな衝動が喉元まできた。けど、そんな思いは同時におれの喉を塞いだ。いや、どうしたって言うんだ。彼が食事をともにしないのはいつものことだ。話し合いには呼んでくれって言ってるし。何一ついつもと変わらない。なのにどうしておれは、彼を引き止めるべきだと思ったんだろう。
 その後、彼は常態にもどった。彼は必要最小限を少し下回るくらいに、ギルドの皆と話をする。あえていうならメディックと話すことが多いけど、それは彼がギルドマスターだからだ。他の皆に対しては、天候や飯のよしあしについてすら口を開かない。完全に、今までの通りだった。彼のてのひらを払いのけてきたのはおれなんだから、文句なんて言えるはずもない。なのに、今までどころじゃなく胸が痛んだ。ただ、元に戻っただけなのに。
 どうすればいい? どうする必要もない。他人に対し何一つ関心がないといった様子の彼の表情。素通りする目線。襟首を掴むことなんてないてのひら。何も変わらない。何も不具合も不都合もない。――彼が追いかけてきてくれてるとか、そんなたちの悪い喜びがなくなっただけだ。ほんのちょっと、彼が注意を払う相手からおれがはずれただけだ。
 公宮からの依頼の品がそろい、明日はメディックがそれを届けにいく、と。そんな晩のことだった。
 きっと、もう寝てるか、そうでなければメディックとの話が終わってないだろうな、と。そう考えながら、おれは彼の部屋の扉を叩いていた。返事がないのを確認して、それで満足するつもりだった。
 期待に反して、扉は開いた。ほんの少し驚いたような表情になった後、彼はとても穏やかに笑った。ここしばらくの路傍の石を見る目じゃなくて、ベッドの中で何度か見た表情(かお)だった。
「――入るか?」
 柔らかく響く声だけで泣きそうになった。確かに、おれに話しかけてる声だ。ちょっとだけおいて頷いた。しばらく見ないうちに、彼の部屋はちょっとだけ変わってて、よそよそしくなったみたいな気がした。



 まあ、その。それで、そういうわけで。元に戻ったというか、むしろ、それ以上というか。寝不足の結果として、誤解も勘違いもなくなったとは思えないけれど、その――とりあえず、多分、気が向いたときに気持ちいいことをするだけじゃない間柄になれたと思う。気持ちいいとそれはヤだ以外についても注意を払ってくれるようになるらしい。
 氷花も届けたし、翼人に通行手形も披露した。今は、ピンクの花びら舞い散る第四階層の探索だ。……うん、そんなことはある意味どうでもいい。亀はてのひらサイズがいいよねとか、そんなこともどうでもいい。とにかく、そうやって世界樹の探索は順調にすすんでる。ていうか、ある意味普通の生活が戻ってきた。特別忙しくもないし、さりとてヒマでもない。やることはいろいろあるけど、必ず今日やらなきゃいけないことっていうのはそんなに多くない。そんな日々だ。