ソードマンの独白-7.5 神のみぞ知る
つまり、ぶっちゃけ作ればヒマはある。けど。――あれ以来、ただいまとおやすみのキス以上のことは何もない、とてもとても清い日々だった。……なんで? それはおれが誘うならカッコよくスマートにとか欲目を出したから。彼がどうやらこっちの出方を観察するモードに入ったから。うああ。でもさ、でも、せっかくなんだし! 好きだって言ってから最初なんだし! わかったって、その後なんだし! だから家畜扱いだけじゃなくて、カッコいいとこ見せたいとか思ってもいいじゃん! もちろん、彼に押し倒されたらそのまま流れるけど! けど、なんか面白そうに観察してる……し……あれ? もしかして、終わって、る?
いろいろ、彼のことを聞いて、おれが彼のことを好きなのは駄目じゃないとか、なんかたくさん話して、盛り上がって、その、久しぶりにベッドに押し付けられてるみたいな状態で激しいキスをしてというかされて、それで、ええと、もう正直、このままでいいかなーと思ったりもしたんだけど! でも、ハッキリいって、彼は無駄に頭がいいというかなんというか、多分こんなものだろう的に思ってると、絶対にそのすきをつかれる。悪気だと言うつもりはないけど、ないと思いたいけど! だからおれは、そのまましがみつ
きたくなる手をなだめすかして、どうにか、ようやく、正気を保って、がんばって、それで、ぐいとおしのけた時の表情は、なんかちょっと忘れられそうにない。ほんの少し目を見開き、驚いたような表情をした後、ちらりと目線をさげー―どこを確認してるんだよどこを! そのあと、面白そうに笑った。はいはい、と。甘やかすような優しい声で言った後、枕に頭を預けておれを見て撫でて、他に何があるんだ? と、尋ねて……ううっ。今までになくおれを見てくれてるみたいで、それですごく穏やかで優しげで、幸せだけど、幸せだったけど。つか、その後、額とか頬とかに軽く唇が触れるの、すごい気持ちよかったけど、ちゃんと真面目に聞けって拒否したのは……失敗? 違うー。そんなことない、はず、だよね。……それでいろいろ話してるうちに寝た。文字通り。他人がそばにいると寝れないとか言ってた人が先だったのはどーゆーことかな。おれもほどなく安心して気持ち良く眠りましただけど。ちょっと寝足りなかったんだから、文字通りに寝たってのはある意味正しかったんだけど。
で、だ。……今現在彼は、ギルドほしのすなとは別行動を取っている。ていうとなんか、また出禁!? みたいだけど、なんのことはない、夕飯を例の旧友とかいう人ととってるだけだ。うん。近い距離で楽しそうに笑いながら、酒のボトルに手をかけてる。
……。ていうか。明日は休日、だから一晩むつかしい錬金術のええと論文? をツマミに、一晩語り合ってくるらしい。なんかもう、どこからつっこんでいいかわかんない。せめて、あれ以来初めての夜を過ごしてから……でもやっぱヤだ。一晩て、よりによってあの旧友の人ととか。目的あるにしたって、でも、ついうっかり――じゃなくても、あんな笑顔で酒まで入れて二人きりで過ごすとか、ない、イヤ、無理。……一度はイヤだって言いはったら諦めてくれたけど、今度は彼もひかなかった。他に誰がいるんだとか、ちょっと待って。確かにおれはバカですよ。彼が好きなむつかしい話なんて、子守歌か混乱の呪歌にしかなんないですよ。でもそれにしたって、その言い方はヒドいと思う。何されてもいい相手よかマシだけど、そういう問題じゃない。あんまりイヤだって主張すると、そのうちこっちが嫌われかねない気がするし。どうしろって言うんだよ、どうすればいいんだよ。でも、イヤなんだからしょうがないじゃん。
「――!」
イライラと向こうのテーブルを気にして、飯の味もわからない状態だったおれは、椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった。どうした? と。のんびりしたパラディンの声に、なんでもないと返事をしながら、アルケミストの方へと向かう。
うん、旧友の人の襟首を掴んで顔を寄せてる構図とかなしだと思う! 絶対、なしだと思う! ていうかそれ以上やったら営業妨害だから! むしろオレが妨害するから!
気配なんか消してなかったけど、彼は話に夢中でおれに気づいていなかった。なんか逃げ腰の旧友とか言う人を一生懸命つかまえて、なんか言ってる。おれは、そっと彼の背後から腕を伸ばした。そして、左腕を首に巻き、右腕でしっかりと抑え、しめあげる。
一瞬、気配が揺れたかと思うと、彼は腕を引き剥がそうとした。けど、残念ながら、ポジション的にもおれのが有利だし、そもそもの腕力も違う。ふっと抵抗がやんだところで、おれは腕を緩めた。そして。
「やっぱりおれ、アンタに言いくるめられた気がする」
そう囁いてから、彼を解放した。げほげほと咳き込みながら、彼はおれを睨んだ。そして、どういうことだと低い声で尋ねる。
「後で言う」
そう短く告げて、おれは背筋を伸ばした。そして、騒ぎを見守っていたアルケミストの旧友に頭を下げる。
「お騒がせして申し訳ありませんでした。もう邪魔はしません」
そして、用意しておいた謝罪を口にした。ちょっと面食らったような顔をしてた彼は、一拍おいていやこちらこそと笑う。なにがどうこちらこそなのかなんてわかんないけど、とりあえずここまでだ。何か言いたそうなアルケミストをちらりと見てから、おれはほしのすなの皆の元へと戻った。
一体どうしたんだというパラディンに対しては沈黙を守り、お疲れさまですと面白そうなメディックからは目をそらす。うん、ダークハンターが何も言わないのだけが救いかも。
なんだかこう、やっちゃったかなーと思いつつ、中断してた食事を再開する。イヤっていうのは言った。文句は後から! って、あれ? これおれの好きなやつじゃん。何食ってたか忘れてた。なんてことを考えながら席につこうとしたところ、アルケミストの旧友の声が聞こえた。って、何? 何なんだ?
そこの美人なアルケミストのおねーさんとかなんとかいういくらかの交渉の後、別テーブルにいたちょっときつそうな女性が、彼らのもとへと向かった。どうぞどうぞとアルケミストの旧友は席を譲り、女性のもともとのつれに対し、ちょっとお借りしますとかなんとか言って頭を下げている。
……。……増えた?
なんか紙を広げて女性に示してるアルケミストの姿に、そんな言葉が浮かんだ。親しい人だったのかな。確かにアルケミストは結構ほしのすなの皆とは別行動とってるから、ギルドの外に知り合いがいてもおかしくないけど。
旧来からの友人みたいに――ていうか、まあうん、あの旧友とか言う人と話してるときみたいに、アルケミストときつそうな女性は顔を寄せ合っている。ようにみえる。にこにことその様子を見守りながら、旧友とかいう人はオヤジさんからグラスをもらって、女性の分の杯を用意していた。
おれはちらりと女性の元連れの様子をうかがった。なんか呆然としてる。まあ、そりゃそうか……。しばらくしたとこで我にかえったらしく、憤然とアルケミストたちのテーブルに向かった。すぐに気づいた――というか、最初から二人に比べると少し引いた位置にいたアルケミストの旧友が謝ってると、不意に女性が顔をあげた。
作品名:ソードマンの独白-7.5 神のみぞ知る 作家名:東明