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ただ一度だけの永遠

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再び降りだした雪が、静かな音を立てて地面に積もって行く。

酷く長い時間に、感じられた。

「・・・やめておけ・・・」

テスの言葉が、沈黙を破った。

「人体錬成なんか、するもんじゃない。」

静かに、紡がれた言葉。

「大切な物を、持って行かれるぞ。」

エドは息を呑んだ。

「やったのか?!」

人体錬成を。

しかしだとしたら、テスは何を持って行かれたと言うのだろう。

ハンベルガング家のジュドウでさえ、両の目を失った。

どう観ても何も変わらないように見える。

イズミのように内臓を持って行かれたのだろうか?

テスが、再びエド達に背を向けて歩き出した。

「待てよっ!」

テスはちらり、とエドを観た。

「ここでは寒いだろう?それにこんな所で声を上げていれば迷惑になる。ちゃんと話を聞きたいんだろ?」

「あ・・・」

ちゃんと話す気だったのか・・・

「兄さん・・・」

「行くぞ。」

エドはテスを追って、歩き出した。


宿に戻ったエドとアルは、テスの部屋に招かれた。

「その辺に適当に腰掛けて。」

そう言われ、エドとアルはベッドに腰を降ろした。

「何から聞きたい?」

椅子に腰掛け、テスが口を開く。

「それじゃ単刀直入に。人体錬成を、やったのか?」

「ああ。」

エドの問いに頷いたテスに、エドは更に言葉を続ける。

「成功、したのか?」

「・・・いや。」

はーっ、と、大きくエドは息を吐いた。

どうやらやはり、エドが欲しい情報は得られそうには無かった。

「あの・・・テスさん・・・」

おずおずと、エドの横でアルが口が開いた。

「テスさんは、誰を人体錬成しようとしたんですか?」

ふぃ、とテスは視線を外し、俯いた。

ふと、エドはぽつりと紡がれたテスの言葉を思い出した。

『俺にも弟と妹が居たよ。』

どうして気付かなかったのだろう。

その言葉は、過去形だった。

「あんた・・・弟と妹が居たって・・・」

紡がれたエドの言葉にテスが視線を上げる。

「察しがいいね。錬成しようとしたのは妹だよ。」

そうして、テスはその経緯を話し出した。



テスには歳の離れたリンツとフェリーゼと言う双子の弟と妹が居た。

弟のリンツは良く森で果物や木の実を採り、体が弱くベッドに横になっている事が多かった

妹のフェリーゼに食べさせてやったり、川で魚を捕っては夕食用にとテスに渡したりと、

優しく、良く気が付く子だった。

そして妹のフェリーゼは手先が器用で、良くベッドの中で小さな人形を作ったりしているような子だった。

両親を早くに亡くした所為で、テスが親代わりとなり小さな姉弟達を育てていた。

ある日買い物から戻って来たテスは、何かいつもと違う気配を感じ、急いで家に入った。

辺りは酷く荒されており、すぐに物取りがあった事を悟ったテスは、隣の部屋で寝ていた筈の

フェリーゼの事を思い出し、慌てて隣の部屋へ飛び込んだ。

「!!」

テスは、言葉を失った。

壁や、天井に飛び散った夥しい血痕。

真っ赤に染まったベッド。

糸の切れた繰り人形のように空中を眺めている、小さな妹。

その瞳は既に何も映してはいなかった。

そして、ベッドの傍に凍りついたように立ち尽くすリンツ。

「何があったの?!」

問質すと、リンツは震えながら言葉を紡ぎ始めた。

「・・・急に恐い人がいっぱい家の中に入って行ったんだ・・・僕森の入り口から観てて・・・

リーゼが危ないって思って急いで戻って来たら、そいつら食べ物だけを持って出て行った・・・

そいつらの目・・・赤くて恐かった・・・部屋に入ったら凄い血の臭いがして・・・

リーゼが死んでた・・・」

赤い、目・・・

イシュヴァールの・・・民・・・か・・・

テスの村は東の大砂漠とイシュヴァールの、丁度間にあった為、流れて来るイシュヴァールの民は

少なくは無かった。

その日から、弟のリンツに、異変が起こった。

夜中に急に叫び出し、起きあがったり何かに怯えた様に泣き喚いたり、歩き回ったり、

走り回ったりするようになったのだ。

頻脈、速い不規則な呼吸、発汗、瞳孔が広がるといった症状が毎晩続いた。

しかし本人は全く覚えていなかった。

「夜驚症、と言うのだそうだ。」

話の中で、テスはエドに言った。

「原因はフェリーゼの惨殺死体を観た事らしい。」

再びテスは語り出した。

「あの時家に居てやれば助けられたかも知れない・・・そうすればリンツもあんな風にならずに

済んだ・・・そう思って、フェリーゼを生き返らせてやればリンツも元に戻ると考えたんだ・・・

そして人体錬成を行った・・・錬成陣を描いて錬成を始めた時・・・夜驚症でベッドを抜け出していた

リンツが部屋に入って来て・・・気付いた時には錬成陣の中に足を踏み入れていたんだ・・・

本当に一瞬だった・・・リンツは代償として光の中に消えてしまった・・・気が・・・

狂ってしまいそうだったよ・・・」

そうか・・・だから・・・

テスの体に大きな異変は起こらなかったのか・・・

でも・・・

「・・・代償は・・・あんたの弟だけだったのかい・・・?」

エドの問いに、テスは首を振った。

ジャケットのポケットを探り、テスは一枚の写真をエドに見せた。

その写真には、小さな二人の子供と、可愛らしく優しそうな女性が写っていた。

「ねぇ、この女の子、何だか兄さんに似てるね。」

「そうか・・・?」

女の子に似ていると言われても・・・

まぁ、確かに雰囲気はあるのかも知れない。

「弟と妹と・・・母親・・・?」

エドが口を開くと、くす、と、微笑って。

テスは口を開いた。

「それは、俺だよ。」

「「えええええぇぇぇ??????!!!!!!」」

エドとアルは思わず大声を上げた。

「だってこの女の人、ちゃんと胸あるよ???」

思い切り動揺したように、アルが言った。

確かに、写真の女性は豊かな胸をしていた。

そんな二人の反応を観たテスは、着衣を脱ぎ始め上半身裸になって見せた。

胸に大きく抉られたような、傷。

締まった体をしているが、男性にしては丸みを帯びた体。

「ここをね、持って行かれたんだよ。」

余りに痛々しい傷跡に、エドは視線を逸らした。

テスは服を着直し、言葉を続けた。

「でもね、全く痛みは無かったんだ。こんなに酷い傷だったのに。」

「え・・・」

痛くなかった・・・?

エドでさえ、酷い激痛に襲われた。

「ナイフか何か、持ってるかい?」

「え・・・ああ・・・」

エドは小さなナイフを出すと、テスに柄の方を向け、手渡した。

エドからナイフを受け取ったテスは、くるりとナイフを回すと、ざくり、と、ナイフを自分の腕に

突き刺した。

「!!」

「テスさん!!」

テスはナイフの刺さった腕を、普通に見つめていた。

鮮血が、溢れて行く。

「早く手当てしないと!!」

アルが慌てたように立ち上がった。

「大丈夫だから。」

テスはそう言うと、ナイフを抜き、傍にあったタオルで腕を縛った。

「痛く・・・無いんですか・・・?」

恐る恐る、アルが聞く。
作品名:ただ一度だけの永遠 作家名:ゆの