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ただ一度だけの永遠

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薄く、テスは微笑った。

「痛覚がね、無いんだ。」

「え・・・」

痛覚が、無い?

「弟と、胸と一緒に持って行かれたんだよ。」

だから痛くは無かったんだ、と、テスは言った。

「・・・・・・なあ・・・・・・」

ほんの少し間を置いて、エドは口を開いた。

「あんたは・・・・・・何も観なかったのか・・・・・・?」

テスは、小さく首を傾げた。

「人の形をした何か、かい?」

「観たのか?!」

テスの言葉に、エドは思わず身を乗り出した。

「良くは覚えてはいないけどね。この世の理がどうとかって言ってたな。」

他にも居たんだ・・・

気が抜けたように、とすん、と、エドはベッドに腰を落とした。

「だからテスさんは錬成陣無しで、言葉を操る事が出来るんですね。」

まあね、と、テスは答えた。

「体全体が、どうやら輪になっているらしい。だから錬成陣は、描かなくてもいいんだ。」

「そっか・・・」

「何故君は人体錬成に拘るんだ?」

エドは機械鎧の腕と脚を、テスに見せた。

「人体錬成で、左足と弟を持って行かれたんだ。右腕は弟の魂を錬成した代償。」

「錬成は・・・誰を?」

「・・・母親、だった。」

エドの言葉に、テスが立ち上がった。

ふわり、と、エドとアルを抱き締める。

「え・・・あの・・・」

「辛かったんだな・・・」

テスは、二人の耳元でそう、囁いた。

「リンツとフェリーゼが生きていれば・・・君達と同じ位の歳なんだ・・・ごめん・・・

もう少し・・・このままで居させてくれないか・・・?」

テスも・・・辛かったのだと・・・

そう、エドは思った。

「・・・うん・・・」

エドは、小さく頷いた。





「ねえ兄さん…テスさんの事…本当に消しちゃうの…?」

朝食を食べているエドの向かいに座っていたアルが、言った。

「…さあな。」

ぶっきらぼうに、短くエドは答えた。

「僕、あの人好きだよ?だっていい人だし…」

もごもごと、口ごもるように。

エドだって、複雑だった。

昨夜の話を聞いて益々気が進まない。

出来る事なら、本当に逃げて欲しい。

しかし…

「おはよう。」

不意に声がして、テスがエドの横に朝食の乗ったトレイを置いた。

「ここ、いいよな?」

「あ、はい。どうぞ。」

何も答えないエドの代わりにアルが答える。

「良く眠れた?」

「ええ…まぁ…」

やはり、答えたのはアルで。

何でこの人は俺達にそうやって話せるんだ?

エドは、心の中で思っていた。

テスの事を消そうとしている自分達と、どうしてこうも普通に話せるのか。

それとも、自分達が情に絆されて何もしないとタカをくくっているのだろうか。

「なあ。」

思わず、エドは口を開いていた。

「あんた、一体どう言うつもりなんだ?」

テスは食事の手を止めてエドを観た。

「どう、とは?」

静かにテスが口を開く。

「俺達、あんたを消そうとしてるんだぜ?なのにあんたはそれを解っててこうやって
俺達と話してる。」

真っ直ぐと、エドはテスを見据えた。

テスはにっこりと微笑むと、言葉を紡いだ。

「そうしたいから、だよ。」

そうしてテスはポケットから何かの紙を二枚出し、テーブルに置いた。

「今日の昼過ぎにさ、コンサートがあるんだ。良かったら観においで。」

「コンサート?!」

身を乗り出したアルの声は、嬉しそうに弾んでいた。

「行こうよ兄さん!テスさんのコンサートって、なかなかチケット取れないんだよ?!」

まるで欲しい物をねだる子供のようだ、と、エドは思った。

まぁ、特に断る理由も無かったので、エドはそのチケットを受け取る事にした。

チケットを受け取り、記載内容を見ると、そこには1列25番と書かれており、

もう一枚は26番となっていた。

「これって、もしかして物凄くいい席なんじゃ…」

席番を見たアルが口を開く。

「うん。一番前のど真ん中。」

にこにこと笑いながら、テスが答える。

「やったぁ!兄さん、最前列だよ!」

「ああ…」

アルの無邪気なその様子に、エドはほんの少し顔を綻ばせた。

「あぁ、そろそろいかなきゃな。」

壁の時計で時間を確認し、テスは席を立った。

「もう行くんですか?」

「これからリハーサルなんだ。」

そう言って、テスはひらひらと手を振った。

「どうしよう〜僕、今からドキドキしてるよ〜♪」

無邪気に声を弾ませるアルとは正反対に、エドは複雑な思いを胸に芽吹かせていた。



「凄い人だねぇ…」

辺りを見回しながらアルが呟く。

一体どこから集まって来るのだろうかと思う程の少女達が、夫々の席で開演を待っている。

エドとアルはテスから貰ったチケットを持って、最前列の席に向かった。

「あった!ここだよ兄さん!」

アルは嬉しそうに言うと、用意されていた席に腰を降ろした。

手を伸ばせば舞台に届く位の距離。

「楽しみだねぇ♪」

ああ、とアルに言葉を返しながら、エドは周りを見回した。

良く観ると、少女だけでなく、少年や女性も混じっている。

中には歳を召した女性もちらほらと見受けられる。

へぇ・・・

結構年齢層広いんだ・・・

余りにも少女達が目立ち過ぎていたので解らなかった。

ふと、後ろの席の少女二人がひそひそと話している声が聞こえた。

何気に意識を集中させてみる。

「・・・あの席、いつも空いてるのに珍しいわよね・・・」

「・・・あのふたつだけ絶対空いてるから、わざとそこだけ空席になるように
してるんだと思ってたのにね・・・」

どうやら自分達の座っている席の事のようだった。

そうなのか・・・

ゲスト用の席で取ってあるのか?

なんか、そう言うのってずるい気がする。

特権なのかもしれないけど。

そんな事を考えているうちに照明が落ち、ステージの幕が上がった。

一瞬にして客席が静まり返った。

同時に曲が始まり、ステージに立っていたテスが歌い始める。

瞬間、エドの全身に、鳥肌が立った。

それはどこか懐かしく、暖かく、悲しく。

エドの目の前に、リゼンブールの景色が広がった。

萌える緑。

小高い丘。

のんびりと走る馬車。

幼い自分達の笑い声。

母さんの、笑顔・・・

視界が、滲んだ。

涙が溢れて、止まらなかった。

ふと周りを見ると、他の少女達も、エドと同じように瞳に涙を浮かべていた。

これが・・・言葉の力・・・

これが・・・言霊の錬金術師・・・

テスの歌は、人々の心の中に眠っている優しい思い出や懐かしい風景を引き出し、

夫々に安らぎを与える物だった。

エドは何故このふたつの席がいつも空いていたのか、解ったような気がした。

ここは、テスの弟と、妹の為に空けられた席だったのだ。

決して座られる事の無い、ふたつの席。

その席に、エド達を招いた理由。

エドとアルに、自分の弟と妹を重ねていたから?

違う。

席を空けておく必要が、無くなったから。

テスは、覚悟を決めたのだと。

エドは把握した。

駄目だ・・・

駄目だよ・・・

そんなの駄目だ・・・
作品名:ただ一度だけの永遠 作家名:ゆの