ハガレン短編集【ロイエド前提】
邪魔
「そう言やさ、エドにとって大佐って、どの程度の割合なんだろうな?」
ふと、何気無くブレダが口を開いた。
「割合?何の割合ですか?」
皆にコーヒーを配っていたフュリーが、不思議そうにブレダに問う。
「エドの中の大佐の存在ってやつさ。あいつここへ来ると執務室に籠りっきりでさ、中で大佐と
何話してんのか知らねぇけど、ずーっと一緒じゃねぇか。」
あぁ、と、フュリーは納得したように頷いた。
「ラブラブですからねぇ。」
そう答え、フュリーはほんの少し顔を赤らめた。
「何でお前が赤くなるんだよ。」
「え・・・いや・・・何と無く・・・」
純情を絵に描いたようなフュリーは、たまにこう言った可愛らしい反応を見せる。
こう言う所が、司令部内の女性に人気があるらしい。
「思うに。」
突然口を開いたのは、ファルマンだ。
「賢者の石30%・アルフォンス30%・大佐40%と言う所では無いでしょうか?」
「案外無難な割合だなぁ・・・」
黙ってやり取りを聞いていたハボックが小さく息を付き、漸く話題に参加する。
「あいつの中での割合なんざ、その時によって変化するから、一概に何%とは言えねぇんじゃねぇか?
寧ろ別グラフがあると思うぜ?」
大佐に関してはな、と、ハボックは続けた。
「あぁ、そうですね。それは思います。」
ハボックに賛同したのは、フュリー。
不意に。
勢い良くドアが開いた。
「ぃよぅ♪邪魔するぜ♪」
そう言って姿を現したのは。
「ヒューズ中佐!」
慌てて敬礼しようとする一同を制し、ヒューズは現在不在中のホークアイの席に腰を降ろした。
「今日は仕事じゃねぇからな。執務室に行ったんだが、ロイの姿が見えなかったんでここへ来てみたんだ。」
くるくると椅子を回しながら。
「あぁ、今大佐、会議中なんでもうすぐ戻ると思いますよ。」
「ふーん。まぁ、それはそうと、何の話してたんだ?」
流石に面白そうな話を嗅ぎ付けるのが上手い。
「エドの中での大佐の割合についてっス。」
答えたハボックの言葉に、ヒューズは「へぇ?」と言葉を零した。
「それで?結論は出たのか?」
「いえ。大佐用で別グラフがあるんじゃないかって事になったんです。」
「ふぅん・・・」
ヒューズは何か考えるようにほんの少し首を傾げた。
そうして。
「ちょっと、実験してみねぇか?」
そう言って、ヒューズは片目を瞑って見せた。
「実験?」
「ああ。実は今日、エドがここへやって来る。エドがロイに会いに行く迄に、如何にエドを
足止め出来るか、だ。」
ヒューズの話は、こうだった。
如何にエドの興味を、ロイから反らせる事が出来るかを競い、一番エドの興味を引いた人間が勝ち、
と言うのだ。
「ようは邪魔しろって事ですか?」
「まぁ、単純に言えばな。」
一同はお互いの顔を見回し合い、声を揃えて言った。
「やりましょう。」
東方司令部の面々は、余程に暇であったらしかった。
ばさり、と。
分厚い資料を机に置き、椅子に腰を降ろし。
ロイは大きく息を付いた。
眠そうに大きく欠伸をする様に、会議が余程つまらなかったのだと言う事が把握出来る。
その様子をドアの隙間から覗く司令部の面々。
傍から見ればおかしな光景だ。
廊下を通り過ぎて行く職員達が、怪訝そうな顔をしながら通り過ぎて行く。
「所で中佐、勝者に賞品とか出るんスか?」
不意に思い出したように、ハボックが後ろに立っているヒューズに聞いた。
「賞品?そうだなぁ・・・あぁ、エリシアちゃんの写真をやろう♪」
「・・・いや・・・遠慮しときます・・・」
げんなりと、一同が肩を落とした時、廊下の向こうの方からフュリーが駆けて来た。
「来っ・・・来ましたよ!」
その言葉に、楽しそうにヒューズが声を上げた。
「さぁ、それじゃバトル開始だ!」
「何だか久し振りだねぇ。」
司令部に足を踏み入れ、アルが前を歩くエドに嬉しそうに言った。
「あぁ、そうだな。」
ロイに会えると胸を弾ませながら、言葉少なにエドは相槌を打った。
次第に足が速くなるのが、自分でも解る。
そんな二人の様子を、廊下の先の角に隠れながら観ている人物が居た。
フュリーだ。
フュリーは先程司令部の裏で見つけた子猫を胸に抱き、心臓をバクバク言わせながらエドが来るのを
待っていた。
よ・・・よぅし・・・
フュリーは胸の中で可愛らしく自分を見上げる子猫を観て覚悟を決め、角から飛び出した。
「あ。フュリー曹長。」
フュリーに気付いたエドが、口を開いた。
「やっ・・・やぁ!エドワードくん!久し振り!」
明らかに棒読みの台詞。
「どうしたの曹長、こんな所で。あれ?猫だ。」
フュリーの胸に抱かれている子猫に、エドの視線が留まった。
「そ・・・そうなんだ。司令部の裏に最近住み着いててね。可愛いだろう?」
「へぇ・・・」
どうやら少々興味を持ったエドが、フュリーの胸の中の子猫に顔を寄せる。
や・・・やった・・・!
そう、フュリーが思った瞬間。
「えぇ?!猫?!」
エドの背後から嬉しそうな声が聞こえ、フュリーの視界が翳った。
「わぁ!可愛い!!僕にも抱かせて!!」
小動物に目が無いアルが、歓喜の声を上げながらフュリーとエドの間に割って入った。
にぃ、と、アルを見上げて子猫が鳴く。
「おいで♪」
猫はフュリーの腕の中からアルの腕に移り、アルの鎧の頬をぺろりと舐めた。
「兄さん観て観て!可愛いよ〜vvv」
「飼えないぞ。」
「解ってるよ。司令部の猫でしょ?」
言いながら、子猫の相手をするアルに、エドは笑みを見せて。
「そこで大人しく待ってろよ。」
と、言葉を紡ぎ、エドはそのまま執務室の方へと歩いて行った。
あ・・・あああぁぁ・・・
がっくりと、肩を落として。
フュリーは大きく息を吐いた。
その一部始終を見ていたファルマンは。
今度は自分の番だと、手にしていた数冊の本を抱え直した。
ハードカバーの分厚い本は、既にファルマンの腕に負担を与えていたが、ファルマンはそんな事を
気にもせず、エドが近付いて来るのを待っていた。
後数メートルと言う所で、ファルマンは資料室から飛び出した。
「ファルマン准尉。」
不自然に姿を現したファルマンに、特に何も思わなかったらしいにエドが声を掛ける。
「やぁ、エドワードくん。」
「大変そうだね。半分持とうか?」
そうして本の背表紙を観て。
「あれ?准尉・・・これって・・・」
その言葉に、ファルマンは心の中でほくそ笑んだ。
どうやら興味を引いたらしい。
「資料室の奥で見付けてね。賢者の石の記載があったものだから何かの役に立つかと思って。」
極力平静を装い、言葉を紡ぐ。
「その本、俺も読んだぜ。流石だね、ファルマン准尉。勉強家だなぁ。」
え・・・
作品名:ハガレン短編集【ロイエド前提】 作家名:ゆの