ながいともだち
体が軽くなったような気がして、目が覚めた。
頭はまだ霞がかかったようにぼんやりしてるし、背中を絶えず這い登る悪寒も続いている……けれど、右手から、何か暖かい力が流れ込んできていて、心地よかった。
ゆっくり目を開けた。小さくてつぶらな瞳が、自分を、覗き込んでいた。
このひとを、知っている……そうだ、アリババを守ってくれた……。
「……海母精?」
「あら、気が付いたのですね!ああ、よかった!」
意識がだんだんはっきりしてきた。
右を向くとお守りが、左を向くと悪魔が、貝殻のベットに寝ている。
と、いうことは、ここは……ヘブンシティに違いない。
「オイラは、一体、どうしちまったんだ……?」
海母精が、両手で包み込むように持った右手をぎゅっと強く握った。
「あなたは、聖フラダイスで、倒れたのですよ……目を覚まさないので、ヘブンシティに担ぎ込まれたのです」
暖かい力は、夢ではなかった。海母精は、握った手から、理力を流し込んでくれていた。
「ここで調べたところ、あなたの体から作られる理力の量が、大変少なくなっていることが分かりました。少なくなりすぎて、体を維持するのが、難しくなっているのです。今は交代で理力を注いで……やっと回復してきました」
海母精の顔には、疲れが見えていた。交代で当たったとはいえ、ヘッド級の体を回復させるのだ、そうとう理力を消耗しているのだろう。
「……ありがとう、海母精」
海母精は、にっこり笑った。
「ここは、ヘブンシティ。弱った者や傷ついた者を助けるのは、当然ですよ。……それより、覚えているなら、倒れた時のことを、少し話してくれませんか?」
「?」
「理力の量が急に減ってしまった原因が、分からないのです。具合が悪くなった時の状況が分かれば、原因をつかむ糸口になるかもしれません」
「……ああ」
ゆっくりと、記憶の糸を手繰り寄せてみる。
そうだ、急に目の前が、真っ暗になったんだ……あのときはとにかく寒くて寒くて、神帝の時の上着やマントがやたら懐かしく思えて……朝、起きたときは、少し体がだるいかな、というくらいだったんだけど……前の日の晩は、とてもさっぱりとした気分で……髪を切ったら頭が軽くなって……。
そこまで呟いた時、ふと、海母精の髪に目が停まった。
「海母精……水流の髪が、そんなに長くて、邪魔だと思った事はありませんか?」
こんなことを聞いている場合ではないのだが、波打ちうねる髪を見た途端、思わず口から漏れてしまった。
海母精は、一瞬、きょとんとしたが、すぐに微笑んだ。
「私は、昔からずっとこの髪型だったので、気にはならないのですよ。それに、この髪は、私の力の源でも、あ、り、……あ、あ!」
海母精の目が、急に大きく見開かれた。
「聖遊男ジャック、あなたは髪を切った、と、言いましたね?!」
「?はい」
「大至急、シャーマンカーン様に調べてもらわなくては……もしかしたら、もしかしたら!」