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【シンジャ】七海の覇王に愛されて【6月東京シティサンプル】

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 しれっとそんな事を言ったシンドバッドの様子は、自分の体を離す気が全く無い物であった。
 自分を浴槽の中に引き摺り込んだだけで無く、体を抱き締めるというような真似をして来た彼に憤りを覚えた。一糸纏わぬ姿になっている彼に抱き締められた事によって感じたのはそれだけでは無かったのだが、それを態度や顔へと出すつもりは無かった。
「そうですか。そろそろ離して頂けませんか。あなたのせいで溜まっている仕事が山のようにあるので、早く仕事に戻らなければいけないので」
「まーまーそう言うな。折角濡れたんだ。一緒に風呂に入ろうじゃないか」
 刺々しい声で言ったのだが、全くそれに気が付いていないかのような様子でそう言ったシンドバッドは、自分の体を抱き締めたまま広い浴槽の中心へと向かって歩き出した。
「いい加減にして下さい。一緒に入ろうって、私は服のままですよ!」
 服を着て湯船の中に入っているのだから当然の事であるのだが、濡れた衣服が肌に張り付き気持ち悪かった。こんな格好のままでいつまでもいたく無い。
「それなら脱げば良いだろ。脱がしてやるぞ」
「結構です!」
 断固とした態度で断ったのは、そんな態度で断らなければ彼に服を本当に脱がされる事になってしまう事が分かっていたからである。それでもまだ安心する事が出来ず、自分の服を脱がそうとしないかという事を警戒したのだが、自分の服を脱がそうとする様子は無かった。もう安心しても大丈夫そうだという事が分かり大人しくシンドバッドに抱き締められていると、浴槽の中を歩いていた彼の足の動きが止まった。
 体を離せという事を言わなくなっただけで無く腕から逃げようとしなくなっていたのは、彼の腕から自力で逃げる事が出来無い事が分かっていたからだけでは無い。何を言っても彼が自分の体を離す事は無いという事が分かっていたからでもある。
 何故こんな事になってしまったのだろうか。
 ただ伝えなければいけない件が出来たので彼の元を訪ねただけだというのに。
 それほど急ぐ内容では無かったので、シンドバッドが湯から上がるのを待ってから伝えた方が良かったのかもしれない。シンドバッドに体を抱き締められたままそんな事を考えたのは、そんな事でも考えていなければ今の状況に耐える事が出来無かったからという理由もある。
 自分の体を抱き締めたままの格好になっているシンドバッドが何か言うのを先程から待っているのだが、自分の体を抱き締めるだけで彼は何か言おうとする事は無かった。いつまでこの格好でいなければいけないのだろうかという事を考えていた時、シンドバッドの雰囲気が先程までと変わった。
 このままこの格好でいてはいけない。直ぐに彼から離れるべきであると思ったのだが、今の状況で彼から逃げる事は不可能であった。

「愛してるよ、ジャーファル」

 逃げたいというのに逃げる事が出来無い状況に苛立ちを感じていると、シンドバッドのそんな声が聞こえて来た。
 シンドバッドの台詞は自分の国の政務官に対して言うようなものでも、同性に対して言うようなものでも無い。冗談としか思えないような内容の台詞であったが、冗談では無い事を示す声色でシンドバッドの声色はあった。
 シンドバッドの言葉を聞き胸が苦しくなったが、彼の言葉に驚く事は無かった。普通ならば驚くような台詞を彼から言われたというのに全く驚かなかったのは、愛しているという台詞を彼の口から聞くのはこれが初めてでは無いからである。
 二年前のとある日の夕方、彼と二人きりで仕事をしていた時彼から好きだという言葉を告げられた。冗談だとしか思えい内容であったのだが、彼の様子はふざけているようには見え無い物であった。彼が本気で言っているのだという事が分かったのだが、それに対して真面目に返す事はしなかった。冗談だと今の言葉を思っているような対応をその時取ったのだが、そんな事ぐらいで彼が気持ちを諦める筈など無かった。
 それからというもの、こうやってふとした瞬間彼から好きだという言葉を告げられるだけで無く、口説かれるようにすらなっていた。
「二年待った。そろそろ俺の物になっても良い頃だと思うぞ」
「私は物ではありません」
 口説き文句で今の言葉がある事に気が付いていないかのような態度で言ったのだが、そんな事ぐらいで彼が諦める筈など無かった。そんな事ぐらいで諦めるような人間であれば、二年間飽きもせず自分を口説いたりしなかっただろう。
「ジャーファル。俺の物になれ。そうすれば、何だって与えてやる」
「私が特に欲しい物は無い事は、あなたが一番よく知っているでしょ。敢えて欲しい物を言うならば、仕事を途中で放り出して逃げたりしない上司ですかね」
 仕事を放り出して外に行っていたシンドバッドに嫌味を込めて言うと、渋い顔へと彼はなった。それを見てこの話しをここで終わらせる事が出来ると思ったのだが、この話しを終わらせる事は出来なかった。
「何故そんなに素直じゃ無いんだ。本当は俺の物になりたい癖に」
「自惚れるのもいい加減にして下さい。私はあなたの事を酒癖が悪く、直ぐに仕事を放り出して出掛ける上司だとしか思っていませんよ。私に好かれたいのでしたら、まず真面目に仕事をして下さい。次にお酒を止めて下さい。そうすれば少しは好きになるかもしれませんよ」
 自分の事を愛していながら素直になる事が出来ず嘘を言っているとでも言いたげなシンドバッドに冷たくそう言い放つと、自分を抱き抱えたまま大きな溜息をシンドバッドが吐いた。

「俺が気持ちに気が付いていないとでも思ってるのか?」

 シンドバッドのその台詞を聞いた瞬間、時が止まるのを感じた。
 先程のような台詞を呆れた様子で言わなければいけないという事は分かっている。分かっていながらも、それをする事が出来ない。
 硬直している事しか出来ないでいる自分を見ても、シンドバッドは自分の思っていた通りであったのだという様子へとなる事は無かった。その事から、自分の気持ちを試そうと先程の言葉を言ったのでは無く、自分の気持ちへと以前から気が付いていたのだという事が分かった。
 シンドバッドの言う通り、彼に敬愛の念だけで無く恋愛感情を抱いていた。浴場へと入って来た時、シンドバッドと談笑している女官の姿を見て胸が痛くなったのは、嫉妬からであった。シンドバッドの事を愛していながら愛しているという彼の言葉を今まで躱し続けて来たのは、美しいという言葉からは遠い凡庸な容姿である自分ではシンドバッドと釣り合いが取れないと思っていたからだけでは無い。
「王であるあなたには、それなりの血筋の教養のある女性を妻として娶って頂かなくてはなりません。そして、後継者を作って頂かないとなりません」
 シンドバッドはただの男では無い。南海の島国のシンドリア王国の王である。今言った通りシンドバッドにはいずれ、それなりの血筋と教養。そして、美貌を兼ね備えた妻を娶って貰わなければいけない。そんな風に思っていた為、シンドバッドの事を愛していながら、今まで愛しているという彼の言葉を躱し続けて来た。