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福引

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 時任たちから3つ前の親子連れが、赤や黄色の玉の入ったガラポンを回している。ポトンと緑の布の敷かれた台に落ちたのは赤い玉で、はずれだった。係りの人がにこやかにティッシュを渡している。その次の人もはずれのティッシュだった。ずっとそれが続いている。
「なかなか当たんないわねー」
「さっき当たったやついなかったっけ?」
 係りの人がガランガランと大きく鐘を鳴らしたのだ。
「でもあれ、五等だったわよ」
「へー」
 順番のひとつ前になり、雑誌をしまった久保田が、何気なくみんなを見回す。
「ジャンケンで順番決める?」
「それで運が強いやつが2回な」
 当然のように後を続けて時任が言い、すべて文句なく同意し、輪になって拳を出す。
『ジャーン、ケーンッ……!』
 繰り返すこと二、三回。
「じゃ、藤原、桂木ちゃん、俺、時任。そんで俺と時任がもう1回ずつということで。OK?」
 異議なしで、並び替える。もとよりやる気のなかったふたりだ。自分の分以上にやりたいとは思わない。
 ……とはいえ、こうなると当てたいのは誰しも同じ。
 係りの人に福引券を渡し、藤原が勢いよく回す。後ろから時任がひょいと首を出す。
「当てろよ」
「うるさいですよッ」
 怒鳴り返し、回していた手を『えいっ』と止める。その時、脳内には赤や黄色のハイビスカスの横で想い人と抱き合うやたらと美しい姿……幻……が浮かんでいた。
『久保田センパイ……!』
 声にならない想い。
 コロン。
 出たのは無情にも赤い玉だった。幻が幻のまま消滅し、藤原はがっくりと肩を落とす。
「はい、ざーんねんっ、ティッシュですー」
 にこにこ笑顔で係りの人が言う。
 時任がニッと笑って口を出す。
「藤原、やっぱ運ねーんじゃん」
「だっ……だから、うるさいんですよさっきから! そういうアンタはどうなんだッ」
「ほら、どいて。次、私の番だから」
 わめく藤原を押しのけて桂木が前に出る。
 桂木がガラポンを回し、ポトンと玉が落ちると、係りの人間が持っていた大きなベルを派手に左右に振った。
 ガランガランッ……!
「おめでとうございます、四等でーす! 商品券になりまーす!」
「あ、どうも」
 控えていた係りの人に笑顔で封筒を渡され、頭を下げてそれを受け取った桂木は、振り向いて3人にそれを掲げて見せて、嬉しいのか虚しいのか、微妙な困惑顔で言う。
「当たっちゃった。3000円分の商品券……」
「やったじゃん、桂木!」
「これで後ははずれても言い訳が」
「縁起の悪いこと言うなよ、くぼちゃん! 当たるに決まってんだろッ。この俺様がやるんだからなッ!」
 自分も回すというのに、まるきり他人事の顔で久保田は『がんばってね』と言う。
 桂木は商品券の入った封筒を手に首を傾げる。
「3000円使って3000円の商品券……ね。これは得したことになるのかしら……?」
「これからだ!」
 時任が断言した。
「ほら、くぼちゃん! 気合入れてけ、気合い!」
「はいはい……っと」
 言われた久保田のほうは、『気合いねぇ……』とつぶやき、何故か首をコキコキと音を立てて左右に傾けながら、ガラポンの前に立つ。
 ガシャンッ……ガラガラガラッ……。
 まったく力を入れることなく、ガラポンを回す。驚くほど気の抜けた様子で。適当なところで止め、ポトンと落ちた玉を見て、まったく表情を変えずに言う。
「あ、ダメみたい」
「くーぼーちゃーんーッ」
 赤い玉を見た時任が、久保田の言葉とリアクションとその現実にガクンと脱力する。
「……一応、入れたんだケド、ねえ?」
「それ、どの辺が?」
 周りで固唾を飲んで見守っていた一同がガックリとしてしまう。


作品名:福引 作家名:野村弥広