軽挙妄動
「ちょっと兄さん!どう言う事だよ?!一緒に居たんじゃなかったの?!」
エドを厨房から引っ張り出したアルは、廊下の端にエドを連れて行き、辺りを気にしながら言った。
「知らねぇよ!一緒に居たけど俺も寝てたんだよ!」
エドにしても、訳が解らない。
「はぁ?!それにしたって普通気付くだろ?!」
「気付かなかったんだから仕方無ぇだろ?!」
「何それ?!そんなのおかしいよ!」
「煩いな!俺だっておかしいと思ってるよ!」
言い合いの末、二人は大きく息を付いた。
「…大体、大佐だって悪いんだ…何であっさり誘拐されるかなぁ…」
がっくりと肩を落として呟くエドに、「そうだよね…」と、アルも溜息混じりに言った。
「とにかく、こうしていても埒があかないよ。大佐を捜しに行かなきゃ。」
アルはくるりとエドに背を向け、玄関に向かって歩き出した。
「待てよ。」
エドの制止に足を止め、振り返る。
「何処に捜しに行くんだよ?」
「何処にって…」
宛が無かった事に気付き、アルは小さく「あ…」と声を漏らした。
「あの手紙には場所の指示は無かった。て事は、また何らかの形で俺達に連絡を取って来る筈だ。
それまで待機してるしか無いだろ。」
そう言って、エドはアルの横を通り過ぎ、階段を上がって行った。
エドの姿を見送り、アルは深く息を付いた。
居ても立っても居られないのは、エドの方だ。
恋人があんな姿になった挙げ句、誘拐されてしまったのだから。
平静を保つのも大変だろう。
自分なら、大切な人に何かあればあんなに落ち着いては居られない。
それも、自分にとってたった一人の、大切な人なら尚更だ。
「駄目だなぁ…僕…」
小さく呟き、アルはカウンターに足を向けた。
「あの、すいません。」
「はいよ。」
アルに声を掛けられた女将が、振り返る。
「ああ、あんたかい。どうしたんだい?」
女将はアルを観ると、にこやかに言った。
「あの…ちょっとお願いがあるんですけど…」
申し訳無さそうにアルが口を開くと、女将は嫌な顔を見せず、「何だい?」と聞いて来た。
「さっき手紙を持って来た人がまた来ると思うんです。その人が来たらすぐに僕達に連絡してください。
それと、その人の風貌を覚えていて欲しいんです。」
「それは構わないけど・・・何かあったのかい・・・?」
アルの話を聞いた女将は何かを察したのか、心配そうに言葉を紡いだ。
「ああ・・・いえ・・・ちょっと・・・」
まさか誘拐事件が発生したとも言えず、アルは言葉を濁した。
しかし女将はそれ以上は聞かず、快く引き受けてくれた挙句「何かあれば何でも言っとくれ」と、
笑みを見せながら言った。
「有難うございます。」
アルは深々と頭を下げると、その場を後にした。
外では石畳に陰が落ち始め、空は黄昏時を告げ始めていた。