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軽挙妄動

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Episode.8 迷わず進め!





あの得体の知れない物の声は、エド達の耳にも届いていた。

ベッドに横になっていたエドは、体を起こし、窓から身を乗り出した。


「何だ…今の…」


辺りを見回しても、唯街並みが広がるだけで、声の主らしき物の姿は見えない。

ふと、エドは街の全ての店や窓が閉め切られている事に気付いた。

まだ日が暮れ掛けた頃だと言うのに、だ。

それに、誰一人外に出ている者は居ない。

まるで、あの声が聞こえる事を予測していたかのように。

エドは身を引くと、窓を閉めた。


「兄さん!」


勢い良くドアが開けられ、バタバタとアルが駆け込んで来た。


「兄さん、今の…」

「ああ、聞こえた。」


短く答え、エドは考えるように腕を組んだ。


「あの声…獣かなぁ…?」

「いや…獣にしちゃ違和感がある…あんな声の獣、俺は知らない…」

「ねぇ、兄さん…」


ふと、アルが何かを思い出したように口を開いた。


「僕さっき、果物売りのマリーさんから日が暮れると恐ろしい声が聞こえるって聞いたんだ。
何か、あるんじゃないのかなぁ…?」


やっぱり、とエドは思った。

でなければこの時間に全ての家が閉め切られるのはおかしい。


「話を聞きに行ってみよう。」

「うん。」


エドとアルは部屋を後にし、階下に向かった。




二人が下に降りて行くと、カウンターで女将が宿帳の整理をしていた。

入り口を観ると、やはり閉め切られている。

しかも、厳重に。

エドとアルは顔を見合わせ、頷き合った。


「すいません。」


エドが声を掛けると、女将は顔を上げ、人の良い笑みを見せた。


「何だい?」

「ちょっと聞きたい事があるんだけど…いい?」


エドの言葉に一瞬、女将の表情が変わったのを、二人は見逃さなかった。


「さっきのあの声、何?」


真っ直ぐと、女将の目を見据えて言葉を紡ぐ。

女将は顔色を変え、言葉を喉に詰めたように小さく口だけを開いたが、大きく息を付き、エド達を
ホールのソファーに座るよう促した。

そうして自分も向かい側に腰を降ろし、女将は言葉を紡ぎ始めた。


「…数年前、この辺りにゼファーと言う軍のお偉いさんが居たんだけど、ある日そいつが街を守る為の
研究だとか言って得体の知れない錬金術師を連れて来たんだ。最初は何とも思わなかったんだけどね。
それが暫らくして廃鉱の方から妙な地響きがしたと思ったら、恐ろしい咆哮が聞こえてねぇ。
何て言うんだろうね・・・まるで地獄から這い上がって来たかのような声って感じだったよ。
それからゼファーは姿を見せなくなってね。錬金術師も居なくなっちまってた。街の皆は怪物に
食われちまったんじゃないか、って噂してたよ。」


そこまで言って、女将は一息付いた。


「その怪物って、どんな奴なんだ?」


エドの言葉に、女将がゆっくりと首を横に振る。


「誰も観ちゃいないさ。唯、街の馬鹿なチンピラ共が様子を見に行くって言って出て行ったきり
帰って来なかった。街の外れに住んでた者達は逃げるように家を捨てて街を出てったよ。」

「あ・・・あの廃屋・・・」


昼間散歩をした時に観付けた丘の向こうの廃屋を思い出し、アルが声を漏らした。


「で、その怪物ってのは、昼間は出ないのか?」

「ああ。何でか解らないんだけどね、日暮れ頃から聞こえ始めるんだ。たまに街の入り口近くで
聞こえる時もあってね。もう恐ろしくて恐ろしくて・・・」

「軍に通報はしなかったんですか?」

「したさ。だけど全く取り合ってくれなかった。様子を観に来ようともしなかったよ。自分達で
何とかしようにも、どうにもなんないし。街の周りに囲いでも作ろうかって話も出たけど、そんな
大金何処にも無いしね。」


そこまで話した女将は、項垂れて深く息を付いた。




作品名:軽挙妄動 作家名:ゆの