軽挙妄動
「兄さん…」
アルが小さく呟き、エドを見た。
アルの言いたい事は、解った。
「ああ…」
恐らくは、そいつらはキメラの錬成をしていたのだろう。
日暮れから活動を始めると言う事は、恐らくそいつが夜行性の獣を合わせられた物だからだ。
「その廃鉱は、何処にあるんだ?」
「街外れの東側にある廃屋の向こう側だよ。」
そう答え、女将は息を飲んでエドとアルを見た。
「あんた達、まさかあそこへ行こうってんじゃないだろうね?!」
「え…ええ…まぁ…」
アルが答えると、女将は顔色を変え声を上げた。
「馬鹿な事をするんじゃないよ!あそこへ行って帰って来た者は居ないんだ!そんな鎧に身を
包んでたって、無駄だよ!」
「でも。」
女将の言葉を遮るようにエドが口を開いた。
「このまま放っておく訳には行かない。」
はっきりと紡がれた言葉に、女将は息を飲んだ。
そうして肩を落とし、息を付く。
「・・・そう言って私の息子もあの廃鉱へ行ったきり戻っては来なかった・・・」
「息子さん・・・?」
「ああ・・・3年前に仲間と一緒に出て行ったんだけどね・・・それっきり音沙汰無しさ・・・」
項垂れる女将を、ほんの少しの間眺めていたエドは、黙ったまま立ち上がった。
そうしてそのまま、外へ続くドアへ向かう。
エドがドアに手を掛けた時、何回目かの咆哮が響いた。
「兄さん!」
慌ててアルも立ち上がり、アルを見上げた女将に軽く頭を下げてエドを追った。
二人の姿を見送った女将は、小さく首を横に振り、まるで神に祈るように胸の前で手を組んだ。
かたり、と、奥の部屋のドアが開き、子供が心配そうに顔を覗かせる。
それに気付いた女将が席を立ち、子供を抱き締めた。
「あぁ、大丈夫だよカイル・・・」
カイルと呼ばれた子供の瞳が、エド達の消えたドアを女将の肩越しに眺めていた。
「待ってよ兄さん!」
先を歩いていたエドに漸く追いつき、横に並ぶ。
「ねぇ、大佐はいいの?」
心配そうに紡がれた言葉に、エドは「そんな事言ってる場合じゃ無いだろ」と返し、足早に先を進む。
「でも・・・」
「大佐は。」
アルの言葉を遮るように口を開いたエドは、足を止めてアルを観た。
「大佐は俺達が居なくても、自分で何とかしようとするだろうし、何とか出来る。でもこの街の人達は
自分達で何とかしようにも限界がある。これだけ街の人間が夜を恐れているんだ。と言う事は朝まで
待ってたって場所を指定する手紙は届かない。犯人だってわざわざ夜に行動を起こしたりなんかしねぇよ。
それに大佐なら・・・きっと、こう言う。」
エドはすぅっ、と息を吸い、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「『私の事など気にせず迷わず進め!』ってな。」