軽挙妄動
Episode.9 それは、突然に。
「おい、ガスト。」
無精髭の男が、窓の外の様子を観ながら口を開いた。
「ちゃんと、仕掛けて来たか?」
「ああ。入り口近くと坑道奥の分岐にふたつづつ。」
二人の短い会話から、ロイは状況を読んだ。
坑道と言う事は、この辺りに廃鉱があると言う事か。
そう言えばかなり昔、この辺りは炭鉱で栄えていた筈だ。
どうやらあの声の主は廃鉱に住み着いているらしい。
何かを仕掛けたらしいが、恐らく爆薬か何かだろう。
入り口と坑道奥の分岐にふたつづつ仕掛けたと言う事は、そいつは普段分岐よりも奥に居ると考えられる。
2箇所に仕掛けたなると、廃鉱ごと埋めてしまうつもりか。
と言う事は、こいつらはテロリストでは無いのか・・・?
「だ・・・だけど・・・」
小さく、ディッシュが口を開いた。
「爆発させるには誰かがあそこに入らなきゃなんないんだろ・・・?だ・・・誰が行くんだよ・・・
それにあの量じゃあいつら全部を倒す事なんて無理だよ・・・」
震える声で紡がれた言葉に、ロイは息を呑む。
「安心しろ。お前じゃねぇよ。それにあれであいつら全てを倒せるなんて思ってねぇ。運が良くて精々
一匹程度だろうよ。」
テーブルの向こう側で、ルーツが口を開いた。
「だからまだ、金が要るんだ。軍の奴等が蒔いた種を、国家錬金術師から巻き上げた金で俺達が何とかする。
金が尽きれば何度だって金を吸い上げてやるさ。それくらいやったって、撥は当たらねぇ。」
軍が蒔いた種、だと?
一体どう言う事だ?
「だけどあいつら皆をやっちまう前に、俺達がやられちまうかも知れねぇけどな。」
「無駄話はそこまでだ。そろそろ行くぞ。朝が来るまでに決める。」
無精髭の男の声が低く響き、ルーツの言葉を遮った。
ガタガタと男達が立ち上がる音がして、夫々が壁や、棚にあった武器を手にしたのが解った。
これから廃鉱に行くつもりか。
しかし話を聞く限りこの者達だけでは・・・
「ガーランド。ガキはどうする?」
ルーツの声が聞こえた。
そうか。あの無精髭の男はガーランドと言うのか。
「誰か残った方がいいんじゃねぇか?」
ヴィッツの声が、真横で聞こえた。
ロイは毛布を被ったまま立ち上がると、ヴィッツの袖を引いた。
「一緒に行く。」
ロイの言葉に、ヴィッツが驚いたように短く声を上げた。
「何言ってんだ!遊びに行くんじゃねぇんだぞ?!」
「ディッシュ。残ってガキの面倒観てろ。」
ロイの言葉に表情ひとつ変えず、ガーランドが口を開いた。
「え・・・あ・・・ああ・・・解った・・・」
ディッシュはたどたどしく答えると、持っていた武器を置いた。
何処か安堵したような呼吸。
「大人しくしてな。」
そう言って、ヴィッツがロイの頭を撫で、部屋を出たガーランドに続き姿を消した。
やがて部屋に静寂が訪れ、再びディッシュが頭を抱えテーブルに伏せた。
「神様・・・皆を護って下さい・・・っ・・・」
小さくくぐもった声が、漏れた。
ロイはきゅ、と唇を噛むと、そっとドアに近付き部屋を出た。
テーブルに伏せていたディッシュは、ロイが部屋を出た事に、全く気付かなかった。