軽挙妄動
鉱道の中は、酷く道が悪かった。
広さは充分あるのだが、足場が崩れている場所が多かったので、小さな身体では崖を下っているような
感覚に陥る事が度々あった。
それでも、「道案内と助けは必要だろ?」と同行する事を買って出たヴィッツのお陰で、思いの外楽に進めた。
「ここはガキの頃、良く遊びに来たんだ。」
そう言って、ヴィッツは笑った。
暫く進むと、漸く分岐点に出た。
「あれだ。」
ヴィッツの指した方を観ると、丁度2本に別れた道の入り口それぞれに、木箱が置かれており、
導火線がこちらに向かって延びていた。
「行けるか?」
ロイは頷くと、たった今進んで来た道を振り返った。
「導火線の場所さえ解れば充分だ。あのあたりまで戻ろう。そこから着火する。」
15メートル程前の段差を指しながらヴィッツに告げれば、ヴィッツは「オッケー」と頷きロイを抱えた。
そうして元のロイ背程の段差の上にロイを降ろすと、自分もひらりと段差の上に上がる。
ロイが指を擦ろうとすると、ヴィッツが「ちょっと待て」と声を掛けて来た。
ヴィッツは再びロイを抱え上げ、「すぐに逃げられるだろ?」と、片目を瞑って見せた。
「すまない。」
再び導火線に向かい、ロイは腕を差し出した。
ぱちん、と指を擦ると、チッ!と火花が散り、焔が導火線に向かって走った。
ぽうっ、と火が点り、導火線を伝い始める。
「よし!」
ヴィッツはロイを抱えたまま、出口に向かって駆け出した。
「しっかり捕まってろよ!」
そう叫び、足場の悪い鉱道を抜けて行く。
途中、奥の方から「グルルルル!」と声が上がり地響きがしたが、構わずに外を目指した。
「もう少しだ!」
外の空気を肌に感じ、ロイが声を上げた瞬間。
ドオォォォォン!!!!!!
奥の方から爆音が轟き、大地が揺れた。
「うわっ?!」
衝撃で地面に亀裂が走り、ヴィッツは寸での所で亀裂を避けた。
「あっぶねぇ・・・」
ぱっくりと口を開けた地面を見下ろし、ヴィッツが声を漏らす。
落ちたら確実に唯では済まない。
「立ち止まっている暇など無いぞ!次が来る!」
「ああ!」
ヴィッツがロイに言葉を返した瞬間。
先程の振動で天井が奥の方から崩れ始めた。
それに誘発されたように、先程の亀裂によって脆くなった地盤が再び崩れ出した。
「後少しだってのにっっ!!」
そう、ヴィッツが叫んだ瞬間、二人の真上の岩が崩れた。
「くっ!」
ロイが咄嗟にその岩を爆発させる。
岩の塊が粉々になったと思った、その時、ぐらりとヴィッツの身体が傾いだ。
地面が、割れたのだ。
ロイの身体がヴィッツの腕の中から投げ出され、たった今口を開けた亀裂に吸い込まれるように
落ちてしまった。
声を、上げる間も無く。
ロイの姿は、消えてしまった。
ヴィッツがロイを呼んだが、その声は岩盤が崩れる音に掻き消され、代わりにあの咆哮が響き渡った。
ロイを吸い込んだ亀裂は、落ちて来た岩盤に蓋をされ、その姿を、消した。