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軽挙妄動

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Episode.10 炭鉱






街外れを炭鉱に向かっていたエドとアルは、突然聞こえた爆音と、前方に見えた爆発に、顔色を変えた。


「急ぐぞ、アル!」

「うん!」


二人は炭鉱を目指し、駆け出した。

時折大地が揺れ、足を取られ掛けたが、それでも何とかすぐに炭鉱近くまで辿り着く事が出来た。

炭鉱の入り口付近では、3人の男が3メートル近くもある、何かの獣と戦っているのが見えた。

鳥の物とは違う、黒い翼。

長い、尾。

鋭い、爪と牙。

それは、紛れも無く。

エドが予測していた通り、キメラだった。


「やっぱり・・・!」


エドは舌打ちすると、炭鉱の入り口目掛けて走り出した。

アルもその後に続く。

ぱん!と、手を打ち機械鎧の右腕に剣を錬成し、エドはキメラに飛び掛った。

キメラの背に左手を付き、くるりと身体を回転させ、首の後ろを剣で切り付ける。

ザシュッ!と言う肉を切る音と共に鮮血が飛び散り、キメラは咆哮を上げた。


「ゴガアアアァァァァァァァァ!!!!!!」


突然与えられた痛みに、キメラが暴れ出す。

ばさり、と黒い翼がエドを薙ぎ払うように風を煽った。


「っっ!!」


ひらりと翼をかわし、暴れ回るキメラの頭に降り立ったエドは、キメラの眉間に剣を突き立てた。


「ガアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!!!!!!」


キメラは断末魔の咆哮を上げ、血飛沫と涎を撒き散らしながらぐらりとよろめき、ズン・・・!と
鈍い音を立て、その場に倒れ込んだ。


「大丈夫か?!」


キメラを倒し、アルに安全な場所に移された男達に駆け寄りエドが声を掛ければ、男達は複雑そうな
表情でエドを観た。


なんだ・・・?


不審に思いながらも、エドは状況を把握する為に男達に歩み寄る。


「おい、今のキメラは・・・」


エドが口を開いた瞬間、3人の中の長髪の男がはっとしたように身を起こし、崩れた炭鉱の入り口向かって駆け出した。


「おい!!」


エドが呼び止める声も耳に入らないようで、長髪の男は塞がった入り口を素手で掘り起こし始めた。

他の二人も同じように入り口に向かい、岩を退け始める。


「ちょ・・・おいって!!」


男達の後を追い、エドとアルも炭鉱の入り口へと向かう。


「あんたらっ・・・!」


追いついたエドがそう、声を上げた瞬間。

最初に掘り始めた長髪の男が半分叫びに近いような声を上げた。


「仲間が埋まっちまったんだよ!!」

「何だって?!」

「鉱道の奥に爆薬を仕掛けに行って・・・戻って来られる筈だったんだ!なのに・・・っ・・・!!!」


必死で掘り返しながら、長髪の男が言った。


「退けっ!!」


エドは男達を押し退けると、ぱん!と両手を合わせ、崩れて塞がってしまったそこにある筈の入り口
辺りに手を付いた。

錬成の光が辺りを照らし、そこにぽっかりと穴が開いて入り口が姿を現した。

鉱道の奥を覗くと、崩れ落ちた天井の岩が最奥に続く道を塞いでおり、その手前に人影が横たわって
いるのが見えた。


「ヴィッツ!!」


長髪の男が中に飛び込み、ヴィッツと呼ばれたその男の上の土砂を払って抱き起こした。


「ヴィッツ!ヴィッツ!!」


声を掛けながら身体を揺すると、うっすらとヴィッツの瞳が開かれた。


「ルー・・・ツ・・・」


小さく言葉が紡がれ、ヴィッツは顔を歪めながらルーツの助けを借り、壁に背を預けた。

そうして大きく息を吐き、立ち上がろうと壁に手を付き、身体を支える。


「駄目だ!無理しちゃ・・・!」


エドの後ろから、アルが声を上げた。

それでも、ヴィッツは何とか立ち上がり、道を塞いだ大きな岩に向かってよろよろと歩き出した。


「おい!ヴィッツ!!」


長髪の男・・・ルーツがヴィッツを追う。


「助けなきゃ・・・」


紡がれた言葉に、まだ人が居るのだとエドは把握する。


「この奥にまだ誰か残ってるのか?!」


ヴィッツに駆け寄りそう聞けば、ヴィッツは小さく「俺の所為だ・・・」と言葉を漏らした。


「俺の所為なんだ・・・俺が手を離さなければ・・・っ・・・!」

「おい・・・まさか・・・」


ヴィッツが、ルーツの言葉に顔色を変えた。


「一緒じゃなかったのか?!」

「天井と地面が同時に崩れたんだ・・・それで俺がバランスを崩して・・・しっかり抱いてた
筈だったのに・・・その岩の下に出来た亀裂の中に落ちて行ったんだ・・・」

「何だって?!」


抱いてた・・・?

と言う事は、元々怪我人だった人間か、女性が一緒だったと言う事か?


そう、エドが思った時。

ゆっくりとヴィッツがエドに視線を移し、口を開いた。


「すまない・・・あのチビの事・・・守れなかった・・・」


何・・・だって・・・?!


エドの背筋が、一瞬にして凍りついた。

物凄く嫌な、予感。


「兄・・・さん・・・」


アルも、悟ったようだった。

その、次に紡がれた言葉が。

予感が的中した事を、証明した。


「ロイ・・・っ!!」


搾り出すようなヴィッツの言葉が、エドの頭の中で何度も木霊した。

次の瞬間、エドは弾かれたように身を翻し、地面の亀裂を塞いだ岩を砕き顔を覗かせた深い亀裂に、
その身を躍らせた。


「兄さん!!!!!!」


アルの悲壮な叫び声が、エドを追うように、辺りに響いた。


作品名:軽挙妄動 作家名:ゆの