軽挙妄動
Episode.5 遠くへ
次の日。
エドとロイは、アルと合流する為に駅に向かった。
エドを見付けたアルが、人混みの向こうで手を振る。
「兄さん!」
漸く辿り着いたエドに、嬉しそうに声を上げたアルは、エドの隣に居るロイを観て軽く首を傾げた。
「兄さん・・・その子・・・」
アルを見上げるロイの顔を見詰め、次の瞬間アルは声を上げた。
「兄さん!まさかその子、兄さんと大佐の子じゃないだろうね?!」
こいつもか・・・と、エドはがっくりと肩を落とす。
「だってこの子、大佐にそっくりだし!酷いや兄さん!僕と言う物がありながらっっ!!」
アルはエドが言葉を挟む間も無く捲し立てた。
「あ・・・あの・・・アル・・・??」
一体、何を言っているんだこいつは・・・
「兄さんの、馬鹿ーっっっ!!!」
「アルっっっ!!!!!!」
いい加減、人目を引くのが恥ずかしく、エドは声を上げた。
「なぁんだ♪そうだったのか♪」
事情を説明すると、アルは明るく言った。
嘘だ・・・絶対こいつ知ってたな・・・
大方ホークアイ中尉かハボック少尉に聞いたに違い無い・・・
「・・・わざとだろ・・・お前・・・」
そう言ってやると、「えー?何の事ー?」と言いながら、アルはふい、と視線を外した。
やっぱり・・・
「まぁまぁ、お詫びにプレゼントあげるからさ。」
そう言って、アルは地面に錬成陣を描き始めた。
「よし。」
そうしてどこからかハギレを数枚出し、錬成陣の中央に置く。
地面に両手を付き、錬成陣から光が生まれる。
やがて光は消え、そこにあったハギレは服とブーツに変わっていた。
どこかで見覚えのある、衣装。
「はい♪出来上がりー♪」
ひらりとアルが、その衣装を差し出した。
それは、いつもエドが着ている服と、ブーツ。
しかも、ちゃんと子供服サイズだった。
「兄さんとお揃いだよ♪」
言いながら、アルはロイに服を差し出した。
「なかなか気が利くじゃないか。」
アルから服を受け取り、ロイは嬉しそうに口を開いた。
満足気に服を眺め、そうして隣に居るエドを見上げて。
「着替えて来ていいか?」
瞳を輝かせて言うロイに、駄目だとも言えずに。
エドは乾いた笑いを浮かべた。
「大佐、もうすぐ列車が来るから、列車の中で着替えた方がいいですよ?」
アルの言葉に「そうか。」と言葉を紡ぎ、ロイは大事そうに服を抱えた。
「所で、何処へ行くの?」
思い出したように紡がれた言葉に、エドは別れ際にホークアイから渡されたチケットを取り出した。
チケットは、3枚。
しかも、それは。
「兄さん・・・プラチナチケットって書いてあるよ・・・?」
チケットを覗き込み、アルが言った。
プラチナチケットとは、全ての路線の鉄道に乗れるオールパスのチケットの事で、中々お目に掛かる
機会が無い代物だ。
恐らく、ホークアイなりの気遣いなのだろう。
「よぉし!んじゃま、どっか遠く目指して行くか!」
エドは、明るく声を上げた。
五日後。
エド達はウエストシティとセントラルの境に位置する小さな街に到着した。
周りを野で囲まれたその街は、何処か郷愁を憶える程長閑な場所だった。
「いい所だねぇ。」
辺りを見回しながら、アルが言葉を紡いだ。
何処か声が弾んで聞こえるのは、気のせいでは無いだろう。
エド自身も、心が落ち着くような、そんな感覚を憶えていた。
「取り敢えず、宿を探そう。」
ロイとアルを促し、エドは歩き出した。
エドを追ってぱたぱたと駆け出すロイに、アルはくすくすと笑う。
ロイだとは解っていても、可愛くて仕方が無い。
離れては追い付き、また離れては追い付きを繰り返すロイに、アルはほんの少し考えて。
そうしてアルは、後ろからロイを抱き上げた。
驚いたように肩越しにアルを見上げるロイをそのまま自分の肩の上に乗せる。
「ごめんなさい。でもこの方が楽でしょう?」
肩車したロイに、そう言って。
アルはエドを追って歩き出した。
ロイは何かを言い掛けたが、その言葉を飲み込み、代わりに小さく「すまない…」と言葉を紡いだ。
その、真後ろから。
身を隠すようにアルとロイの様子を観ていた人物が居た。
彼は微かに笑みを浮かべると、後を追い始めた。
漸く宿を見付け、落ち着いて一息付く。
アルの肩から降ろされたロイは、小さく欠伸をして目を擦った。
どうやらやはり、体力も普通の子供と同じになっているらしい。
「疲れた?」
エドがそう聞くと、ロイは首を横に振った。
「大丈夫だ…」
ロイはそう言ったが、左右にゆらゆらと揺れている様に、限界なのだと把握する。
「休んでいいよ。俺、そばに居るから。」
そう、エドが言うと、ロイは「そうか…」と小さく紡ぎ、ベッドによじ登ってそのままぱたりと倒れ込んだ。
じきに、規則正しい寝息が漏れ始める。
静かに布団を掛けてやり、エドは小さく息を付いた。
「可愛いねぇ。」
すやすやと寝息を立てるロイを観て、アルが言葉を紡いだ。
「でも、大佐だぜ?」
「うん。知ってる。」
そうしてくすくすと、笑い合い。
「どんな夢、観てるんだろうね。」
「さぁな。大佐だし。」
「何それ。」
そんな、言葉のやり取りをして。
「ねぇ、兄さん。僕ちょっと散歩して来ていい?」
「あ?ああ。」
アルは腰を上げると「行って来ます」と言い残し、部屋を後にした。
残されたエドは、暫らくぼんやりロイの寝顔を眺めていたが、じきに睡魔に襲われロイのベッドに
顔を埋めて眠ってしまった。
数分後。
部屋のドアが、静かに開けられた。
そろりとひとつの影が滑り込む。
それは、先程エド達の後をつけていた男だった。
男は音を立てないようベッドに近付くと、すやすやと寝息を立てるロイをそうっと抱き上げ、そのまま
再び部屋を出て行った。
エドは全く何も気付かないまま、安らかな寝息を立てたままで。
そうして。
どうやらロイが誘拐されたらしいと把握したのは、それから数時間後の事だった。