なんやかんやで
「それじゃ幸村くん、また来るね」
「うん。ケーキありがとうね。ジャッカルも赤也も、俺がいなくても頑張るんだぞ」
「…ああ」
「…」
今度こそ何も言えなかった。
部長の言葉が嫌みに聞こえた。
病室を出て三人で歩いてたけど、気になって振り返ると、幸村部長と目が合った。
部長はドアの前で立ってたけど、俺を見てニッコリ笑って部屋に戻っていった。
だけど俺は、恨めしそうな部長の目を見てしまった。
幸村部長が戻るまで、真田副部長がテニス部をまとめることになったようだ。
「たるんどる!!」
怒鳴られると同時に、頬に鋭いような鈍いような、よくわからない強い痛み。
部長が入院してからも俺の遅刻癖は直らないようだ。
しかもこんな日に限って幸村部長のお見舞いに行く日。
寝坊はするし頬は痛いし。
憂鬱。
「あれ、今日は珍しい組み合わせだね」
幸村部長の言う通り、俺と副部長と丸井先輩で来るのはこれが初めてのはずだ。
副部長は大抵柳さんと二人だけで行くから。
柳さんは今日用事があるとかで、このメンバー。
「部活の調子はどう?赤也」
「え、っとぼちぼちッス」
って何だよこの受け答え。ここは大阪か。
しかも部長も笑ってくれない。
むしろ部長、最近笑わない気がする。
「真田はちゃんとまとめられてる?」
相変わらず真っすぐ俺の顔を見て部長が聞いた。
「はい」
すると部長は目を伏せて、そうか、と言った。消え入りそうな声で。
「俺、花瓶の水かえてくるよ。赤也手伝って」
え。
まぁいいけど。
部屋を出る時に部長の顔を見た。
不機嫌そうに、自分の手のひらを睨んでた。
「あの、手伝うって何を」
「腹減ったなー。赤也何か持ってないの?」
この人は本当に…。
でも正直助かった。
あのままあの空間にいたら、と思うと何となく怖い。
花瓶の水を入れ替え、気まずいけど戻ることにする。けど。
「…先輩、何スかこの手は」
丸井先輩の手が、俺の腕を強く掴んでる。
目は何かを訴えてる。
何?
「戻らないと、」
バチン、と大きな音が廊下に響いた。
聞いたことがある、直後に襲う痛みまで知ってる。
真田副部長が幸村部長を殴ったんだ。