LOVE LOVE LOVE
色々な事が短い間で起こった為に、彼女は付いていけず、咄嗟に声は出なかった。彼の言葉に対して彼女はこくこくと首を縦に振る事しか叶わない。
「ティナ、大丈夫っ?!」
「私は、大丈夫だけど」
ばたばたと慌てて駆け寄ってきたオニオンナイトは、そっとティナの手を取る。だがティナはそれどころではなく、クラウドの顔を見上げると、不安そうに彼女の瞳が揺れた。
「…俺は、大丈夫だ」
小さな声で彼がそう呟くと、クラウドはティナの頭に手をそっと置いた。どうやらそれは撫でている様であるらしかった。彼女もそれに気が付いたのは、少ししてからの事。
「ティナっ?!大丈夫っ!!」
ティナがクラウドを見上げていると、その耳には少年の大きな声が響いてくる。それで急に現実に引き戻されて、慌てて彼女はそちらへと振り向いた。するとそこには心配そうなオニオンナイトの顔。彼もまた慌てて走ってきたのだろう、はぁはぁと大きく肩で息をしている。
「危ないだろうがっ!」
がばりと振り向いてオニオンナイトが叫ぶと、他の仲間達が慌てて走ってくた。そして一番にティナの元に辿り着いたのはティーダだ。
「本当、ごめんっ!ティナ、大丈夫っスか?!」
「そんなに心配しなくても、クラウドに助けて貰ったから大丈夫よ」
ティナの言葉に、ティーダはほっと胸を撫で下ろす。
そしてその後、彼はちらりと地面に目をやると、そこには無残な姿になってしまったブリッツボール。
「いやしかし、クラウドも中々の運動神経っスね。俺のボールを剣でとは言え叩き落すなんて。一応俺、これでもエースで通ってたんスよ」
地に落ちたそれを拾い上げると、ティーダはクラウドに向かって苦笑する。
「受け止めるんだったら難しかったかもな。剣で切り落とす位ならどうという話じゃない」
「何か、昔やってたとか?」
「兵士時代の仕事が役に立っただけだ。別に運動は趣味でしかやらない」
「へー…」
ティーダの質問に答えているだけにも拘らず、普段は無口なクラウドが珍しく喋っているのを見て、周りの者は目を丸くする。その視線に気が付いて、クラウドは眉を潜めた。
「…一体、何だ?」
「クラウドがそんなに自分の事を話すなんて珍しいと思って。その話、もうちょっと聞かせて欲しいっス!」
「話なんて…」
腕をむんずと捕まれて引きずられていくクラウドの姿に、ティナはその場でくすりと笑った。彼はティナの方を気にして居るのか、彼はちらちらとこちらを振り向くのだが、どうやら掴まれた手を振り解けない様だ。
「ティナ、本当に大丈夫?」
「大丈夫よ。どこも怪我なんてしてないから。さぁ、私達も行きましょう」
オニオンナイトの言葉にそう言って笑うと、ティナはオニオンナイトと共にその場から歩きだした。
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「ティナ、大丈夫?辛いならどこかで休憩するけど」
「うん、そうね。ちょっと休憩しようかしら」
現在は皆と別れて移動中。山道を行く途中でオニオンナイトがそう言い出すと、ティナはこくりと頷いた。丁度良さそうな岩の上に座ると、二人は道具袋から水と食料を取り出し、少しばかり遅めの昼食をとる。
「皆は今、どの辺かしらね」
「さぁ、どうかなぁ。でもやっぱり一番先に着きたいなぁ」
「ふふ、オニオンナイトらしいわね」
オニオンナイトの言葉に、くすくすとティナが笑う。だがそんな平和な時間も、直ぐに終わってしまった。その後に聞こえてきた、耳に刺さる程の高い笑い声によって。
「あら~っ?!こんなところでネズミ二匹が何をしているのかなぁ~」
「え?!」
やけに明るい声と、場にそぐわぬサーカスのピエロの様なやたらと派手な服。そんな者に心当たりはたった一人しか居ない。
「ケフカっ?!」
ケフカの姿を見て、ティナからは悲鳴の様な声が上がる。当たり前だ、この男は過去、ティナを『あやつりの輪』という道具で、戦争の為の兵器にした張本人なのだ。ティナにとってこの男は最悪の過去でしかない。
「人を見るなり悲鳴って、それ酷くなぁ~い?」
言いながらも依然、男はげらげらと笑っている。その声が耳障りで仕方が無い。
「どうしてあなたがこんな所に居るのっ?!」
「さ~あ、どうしてかなぁ~?ぼくちんは、丁度通りかかっただけだしぃ~」
ティナの言葉に、ケフカはそう言ってにやにやするばかり。だがそんな笑い声を上げながらも、男の手には既にファイガ級の炎。ふざけた格好はしていても、一応この男はティナに負けず劣らずの、一流の魔導士である。
「ティナ、お前がぼくちんと一緒に来ると言うなら、そのガキだけは見逃してあげても良いけど?」
「な、…何を」
どうやらケフカは、ティナの後ろに居るオニオンナイトの事を言っているらしい。
確かに疲れきっている今、二人で彼の相手をしても勝てるかどうか分からない。それならば己の身を差し出せという事なのだろう。昔からケフカは魔導の力を持つティナに対して固執していた。その理由は他でも無い、彼は再び彼女を操り人形という兵器にしたいからだ。
「今の疲労しているお前では、ぼくちんには勝てないだろう?」
例え勝てない戦いでも挑むべきなのか、それとも己の身を差し出して後ろの仲間を助けるべきなのか。彼女が最も呪っている、へらへらと笑い続けるその男の顔を見ながら、ティナは思考を巡らせる。
「ティナ、大丈夫だから。僕が戦うよ」
「…オニオンナイト」
ティナが黙っていると、オニオンナイトが彼女の前へとすっと足を出した。彼はどうやら勝てない戦いでも挑む道を選んだ様だ。
(戦って負けても、私はきっとこの男に連れて行かれてしまう)
この世で最も嫌う男の手に落ちてしまうなど、何があっても嫌だ。だがそれ以上に、オニオンナイトを危険な目に合わせるのは、もっと嫌だ。
「オニオンナイト。…良いの、止めて」
「…え?!」
ティナの言葉にオニオンナイトが振り向く。彼女は彼の手を取って、首を横に振る。その表情が、酷く苦しそうで悲しそうだ。
「あなただけでも、どうか無事に」
「誰がそんな事っ!僕が君を置いて行ける訳が無いだろう!っ」
彼女の言葉にオニオンナイトは思わず激昂したが、それでも彼女の表情は変わらなかった。その瞬間に、彼は彼女の意思が固まってしまった事を知った。
「僕は、嫌だ」
「お願い。私の言う事を聞いて頂戴」
その言葉と共に、彼女は彼から手を離した。そしてケフカに向かって口を開く。
「何なに~?こんな時に仲間割れかい~っ?」
「…私は、」
まさに、ティナが口を開いた瞬間だった。
――ザン、と大剣がティナとケフカの間に割って入ったかと思うと、その場にそれは突き刺さった。
「うおっ?!何だよ、これ!」
ケフカは慌ててその場を飛びのいたが、ティナはその場に立ったまま。
「この剣、…見覚えがある」
そう、彼女には突如現れた大剣を、どこかで見た覚えがあったからだ。これは確か、クラウドが持っていたもの。
「貴様の相手は、俺がしよう」
「クラウド…っ!」
崖の上に誰かが居たかと思うと、そこから一人飛び降りてくる。彼等三人の前に突然現れたのは、剣の持ち主でクラウドだった。
大剣を抜き取り構えると、剣がぼんやりと光り始める。どうやら既にバーストしている様だ。
作品名:LOVE LOVE LOVE 作家名:とうじ