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ぐらろく 光の帳で隠して

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「・・・う、うん・・・・俺も・・・・」

 ちょっと暴走気味の恋人がいてくれたから、俺は途方に暮れることもなく、事故の後も生活できている。ただ、できれば、それ以前のことも思い出せたら、とは願っているが、こればかりは、医者にもわからないと診断された。繋がらないシナプスが、どこかでバイパスでも繋げたら、それだけで、突然に記憶は蘇ったりする。ただ、それが起こるのが、いつかはわからない。

「双子だったら、いろいろ聞けるのにな。」

「姫、そういうズルはいただけないな。きみ自身の力で、記憶は取り戻すべきだ。」

「わかってるよ。」

 でも、そんなに似ているのなら逢ってみたいと、俺が言うと、グラハムは、「私も逢いたい。両手に姫だ。」 と、同意した。







 ど修羅場が終わって、やれやれと思っていたら、今度は、クラウスに拉致られた。十日間の修羅場中、俺は、ほとんど、あのお下劣えぐいものがある部屋から出れなかったからだ。

「まあ、実際と、どこが違うっていうと・・・・・まずは、洗うってとこだよな? 」

「・・・・ライル・・・・・そのストレートな感想はいらないんだが。」

「いや、クラウス。あれな、いきなり、入れたりするんだぞ? あんなこと、実際にやったらスプラッタだし、ていうか、入らないっていうかさ。ああいうとこ、リアリティー追求しないのな? 」

「俺にまで、その話をするのは、やめてくれ。・・・・・萎える・・・・」

「俺、ここ二週間くらい、ずっと、あれの黒ベタ塗ったりしてたんだけど? うちの資金源で、俺が拘らない性格だから、というシーリンおねーさんの命令で? 」

「だって、おまえぐらいだぞ? あれ、見て退かなかったヤツ。」

「いや、普段やってるから。」

 そういうことを、へらへら答えるから、シーリンに手伝いを強要されるのだと気付けばいいのだ、と、クラウスは言うのだが、別に、どうということではない。

「そういや、浮気疑惑は? 」

「あれ? 聞いてないのか? シーリンが、ライルもどき捕まえてきたぞ。」

「え? もどき? 」

「ああ、俺は見てないが、シーリンが間違えて街から拉致ったらしい。で、それが、アロウズのセフレだと判明したんだ。・・・・・なあ、ライル、おまえ、兄弟とかいるか? 」

 もちろん、答えはイエスだ。ただ、あれが、アロウズと関係があるというのは、些か解せないとは思う。

「いるぜ、双子の片割れ。」

「この街にいるって知らなかったのか? 」

「知らないな。連絡取らなくなって、長いこと経ってる。・・・・・けど、あれは、アロウズなんかと関係があるとは思えない。」

 どう考えても、地球連合の組織と関係するとは思えない。まったく逆の世界に身を投じたはずだ。それが、そこにいるのなら確かめる必要はあるだろう。

「住所は? 」

「シーリンが、大まかなのは聞いたらしい。」

 それなら、調べてみよう。そこにいるのなら、何か意図がある。クラウスに満足させてもらってから、その住所付近へと出向いたが、それらしい人間は見当たらなかった。何度か足を運んでも、付近のスーパーへ行っても、出会わない。

 逢いたいとは思ったのに、なぜか、双子なのに引き合わないんだな、と、それは残念に思った。

・・・・・あの人と、また、あそこで逢うだろうから・・・・・・・

 たぶん、お互いに、いや、俺は、それを知っている。顔を合わせていないわけではない。ただ、お互いに存在に気付かないように、俺は、いつも見ているだけだ。

 話しかけようと思わない。ここで、逢えたとしても、たぶん、俺は、また見ているだけだろう。だから、そのことは、忘れることにした。




 四という数字と、出会った場所で、私の恋人が何者なのかは、漠然と判明している。だが、それらを踏まえた上で、私は、彼を、そうだと軍に報告できなかった。窒息して仮死状態に陥っていた彼は、目が覚めても、何も覚えていなかった。一時の混乱かと思われたが、それは、窒息によって一部の脳が活動しなくなったことによる後遺症だと診断された。この先、彼が記憶を取り戻すことはないだろうという、私にとって有難い結果に、狂喜しそうだった。

 彼には過去を告げるつもりはない。彼が、私の恋人で専業主夫だったことにして、そこから記憶を新しく作ればいい。彼は、とても素直で優しい性格で、私の言葉を素直に受け入れた。

・・・・だから、きみは真実を知るべきではないのだよ、姫・・・・・・

 双子のように、そっくりな人物がいるという街。もし、姫が真実を知ると、私の作り上げようとしているものが壊れてしまうので、そこから移動させることにした。勤務地は変わらないが、転勤だと言い訳して、そこから、何十キロか離れた街へ引っ越した。そっくりさんと逢えなくて残念だと、姫は漏らしたが、それでよいのだ。

・・・・・きみを光の帳で、すべてから隠す。もう二度と、きみを、あそこへ戻すことはしない。そのために、私は、持てる全ての力を使う・・・・・・・







 急な転勤で、せっかく馴染んだ街を離れた。俺と、そっくりな相手がいるはずの街なので、せめて顔を合わせたいと思っていたが、探しても逢えなかった。

 グラハムの転勤は、いつも突然で、唐突にやってくる。以前の時も、こんな感じだった。だから、まあ、そういう運なのだと、思うことにしている。そっくりな人間に逢えないという運もあるだろう。

 ようやく、周辺の地理を、どうにか覚えた頃、すっかり季節は変わっていた。そろそろ、ハロウィンだな、と、スーパーの飾りを眺めていて、とんっと人に軽く当たった。

「あ、ごめんなさい。」

 ぶち当たったのは、少年だった。赤いマフラーをした印象的な赤い目をした少年で、こちらをギロリと睨んでいる。その姿を見た瞬間に、頭のどこかが冷たくなってズキンと痛んだ。

「問題ない。」

 少年は、俺を一瞥して、そのまま逆方向に歩き去る。

・・・・今の何なんだろう・・・・・・

 ちょっと、ズキズキした頭を擦りつつ、歩き去った方向を、しばらく眺めていた。どこかで出会ったことがあるのかもしれないが、生憎と、それが記憶にない。痛みが治まってから、買い物を続けた。



 この街には、緑地帯が多い。公園も、たくさんあって、俺の通り道にも、ふたつばかりある。また、いつものように、買ってしまった牛乳パックに苦笑して、その公園の一角でベンチに腰かけた。いい天気なので、少し日光浴しておこう、と、思ったのだ。腐るものは買っていないので、雑誌を袋から取り出して眺める。

 俺の前に、黒い影ができたので、顔を上げたら、さっきの少年が立っていた。

「あの、もしかして・・・・きみは、俺の知り合い? 」

「・・・・・・・・・・」

「さっき、ちょっと、そう思ったんだ。・・・いや、あの、俺、記憶喪失ってやつでさ。二年前に交通事故に遭ってから、それまでの記憶、全然ないんだよ。」

「・・・ああ・・・・」

「やっぱり知り合い? 」

「いや、違う。さっき、俺は謝らなかった。だから、あんたを見かけたから謝ろうと思っただけだ。」
作品名:ぐらろく 光の帳で隠して 作家名:篠義