7月7日
「具合悪いの?」
うずくまってると女の子が声をかけてきた。
その声でハッとした。
俺…遅刻じゃなかろうか…
はぁもう最悪。
「お兄ちゃん大丈夫?」
焦ったかと思うとまたため息をはいた俺を心配したんだろう。
その優しさに今はすごく癒された。
「大丈夫だよ。さんきゅーなv」
頭を撫でてあげると安心したのか、ニッコリと微笑んでくれた。
あっそうだ。
俺はポケットから飴を取り出した。
「ハイこれ。心配してくれたお礼。」
「ありがとう!!!」
胸の痛みもだいぶ治まった。
休むわけにもいかないので、
じゃあなと言って学校に向かおうとすると、女の子が追いかけてきた。
「これ!! あげる。」
女の子が渡してきたのは3枚の短冊だった。
「これにお願い事書くとそのお願い事叶うんだよ。」
またねお兄ちゃんっと言って女の子は走って去っていった。
短冊かぁ…懐かしいな。
七夕祭にはよく行ってたけど、最後に短冊に願いごと書いたのはいつだったかな。
俺は大事に鞄にしまって学校に向かった。
とりあえずダッシュで。
ギリセーフ!!!!!
教室に入る直前の先生を呼び止めて追い越して先に入ったからギリセーフ。
非常に危ないところだった。
だが流石俺。
俺がちょっと自分を褒めていると、
同じクラスのウィンリィが話しかけてきた。
「今日はロイ先輩と一緒じゃなかったのね。」
「!!!!!!」
忘れてた。
「ウィンリィの馬鹿野郎。」
「何よそれ。喧嘩でもしたわけ?」
確かに喧嘩もしたけど、
別に大して怒ってたわけじゃない。
今日だって…今日だって一緒に学校に来る予定だった。
でもロイが…
「ロイに彼女が居たんだよ。」
「…どんまいエド。」
「・…そりゃどーゆー意味だ。」
「どういう意味って、そのまんまよ。
だってあんたロイ先輩のこと好きなんでしょ?」
「はぁ!!!!???
ちょっと待て俺は男だぞ!!」
「男とか女とか関係ないんじゃない?好きになったらしょうがないもの。」
「そういう・・・・もん?」
「そういうもんよ。」
吃驚した。
俺はその選択肢を知らなかった。
でも、ウィンリィに言われて感じたのは、嫌悪ではなかった。
何かがストンと落ち着いたような…
そうなのかもしれない…
新たな可能性を見つけてさっきのことを思い出すと、
ロイが女と一緒に居るところを見たときのショックの理由がしっくりきた。
これ…
ヤキモチだ…
俺はロイが・・・・・・・・
「顔、赤くなってるわよ。」
「ぬぁ!!見んな///」
なんだか急に恥ずかしくなって机の上に置いていた鞄で顔を隠した。
するとその拍子に鞄の中身をぶちまけてしまった。
「もう何してんのよ・・・・・あら」
「なっなんだよ。」
俺は空になった鞄で顔を隠したまま。
今の失態で余計に恥ずかしさが増してしまった。
「これ短冊じゃない。」
「おっおう。」
そういえば女の子から短冊を貰ったんだった。
これまたすっかり忘れてた。
「ねぇ1枚ちょうだいよ。」
「おういいから、もうあっち行ってくれ!!」
今の俺は短冊なんかより、
ウィンリィに顔を見られたくないという感情の方が圧倒的に勝っていた。
「ありがとv」
ウィンリィは意外にもあっさりと自分の席に戻っていた。
俺はホッとして、顔を隠していた鞄をようやく下ろす。
横目でウィンリィ見やると、
さっそく短冊に何か書いているようだった。
せっかくだから俺も何か書こうかな…
でも、俺の願い事って・・・・
ていうか…
あれ?
もしかして俺、失恋した!!?
何それ…
嘘だろ。
気づいたときには失恋って最悪じゃん。
いや、まだそうと決まったわけじゃないけど、
だって、俺がロイをそういう意味で好きかどうかまだ…一応分からないし…
あーーーーもう!!!
すっげームカついてきた。
俺は短冊にそのうっぷんを晴らすべく、
[ロイ・マスタングがこけますように]と書いた。
「うん。なんかちょっとスッキリしたかも。」
ロイのこと好きなのかな…
もしかしたら好きかもしれない…
もしかしたら違うかもしれない…
常に一緒に居たのに、どっちか分からない…
でも…ロイに好きな人が居ると思うと、胸が痛い。
「これはやっぱり惚れてるんだろうな…」
「誰に惚れてんだ?」
「うぎゃーーーーーーーーーー!!! ってなんだジャンかよ。」
「吃驚したのはこっちだ馬鹿野郎!!!」
頭をベシッと叩かれた。
そっちがいきなり耳元で声かけるのが悪いのに。
「痛てー…つか縮んだ俺の寿命返せよな。」
「知るか。」
「はぁ…で、なんで授業の合間の貴重な10分休みに、しかも3年のジャンがここにいんだよ。」
「おっとそうだった。ロイが怪我したんだ。」
「え・・・」
「廊下を走ってた奴とぶつかってな。今、保健室で休んでる。」
「大丈夫なのか!!?」
「大したことはないけど、足を痛めたからな。帰り送ってやってくれ。まーそんだけ、んじゃな。」
「そっ・・か…分かった。さんきゅジャン。」
ジャンはそれだけ言うと、教室を出て行った。
そろそろチャイムも鳴るからな…
もっと詳しく聞きたかったけど、大したことはないって言ってたから少し安心した。
でもやっぱり心配だから昼休みにロイのところに行くか。