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「王子様と彼女の話」(サンプル&通販告知)

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 佐隈は我に返ったような表情になり、グリモアを閉じた。
「突然お喚びして、すみませんでした」
 そう佐隈が謝ったのは、召喚するまえにそれを知らせるメールをベルゼブブの携帯電話に送らなかったからだろう。佐隈は礼儀正しいのだ。召喚を知らせるメールは絶対に必要なものではない。
「それはかまいませんので、今の状況について教えていただけませんか」
「今の状況」
「まず、ここはどこですか」
「私の部屋です」
 そうだろうとは思っていた。予想していたとおりの回答が返ってきたので、ベルゼブブは満足し、次の質問に移る。
「では、どうして私は今、この姿なのでしょうか」
「それは、私もよくわからないんですが……」
 佐隈の歯切れが悪くなった。
「たぶん、私の体調が悪いせいか、召喚の呪文をどこか間違えたせいだと思います」
「さくまさん、体調が悪いのですか」
 ああ、なるほど。
 ベルゼブブは納得した。
 さっき、眼のまえにいる佐隈について、いつもと同じような格好をしているのに、いつもとは違うと感じた。ぼんやりとした眼。全体的にあまり生気がない。
 体調が悪いからなのだ。
「はい、風邪をひいたみたいで、熱っぽくて」
「夏風邪ですか」
 人間界は、六月の中旬で、初夏である。
「もしかして、夏風邪はバカがひくって言いたいんですか、ベルゼブブさん」
「いいえ」
 否定したものの、実は、そう言ってやろうと思ったのを言う寸前でやめたのだ。
 ベルゼブブの正面に立っている佐隈の表情から隠しきれない弱々しさを感じて、さすがに遠慮したのだった。
「それは人間界で言われていることでしょう」
 さらりと流して、ベルゼブブは話題を変えることにする。
「そんなことよりも、私を喚びだした用件はなんですか」
「ああ、これから、風邪薬を買いに行くんですが、そのついでに他にもいろいろと買いたい物があるので、一緒にきていただきたいんです」
「荷物持ち、ですね」