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「王子様と彼女の話」(サンプル&通販告知)

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「いつもだったら、完全に私用なので、こんなことはお願いしませんが、今は体力に自信が無くて……」
 佐隈は申し訳なさそうにしている。
「だから、私を召喚したのですか」
 そう返事しつつ、ベルゼブブは芥辺探偵事務所のメンバーを頭に思い浮かべた。
 芥辺は強くて頼もしいが、気軽に頼み事ができない雰囲気がある。
 アザゼルは気が良くて意外と純なところもあるが、職能が淫奔であるため、弱っているところにセクハラしてくる可能性は大だ。
「……私が一番よびやすかったというわけですか。あなたにとって、私は、使い勝手のいい存在なのですね。つまり、私はあなたになめられている、と」
「いえいえ、そんな」
 ふと、あきらかに言葉の途中で、佐隈は動きを止めた。
 次の瞬間。
「ックシュン……!」
 くしゃみをした。
 佐隈は口を手でふさごうとして、間に合わなかったらしい。
 正面にいるベルゼブブに飛んできたものがあった。
「す、すみません」
 鼻をすすりあげながら、佐隈は謝る。
 佐隈は二十歳の女子大生だ。しかし、まるで色気のない様子である。
「まったく、このビチグソ女は……!」
 口汚くののしったあと、ベルゼブブは軽くため息をついた。
「しかし、体調が悪いのなら、しかたありません」
「ベルゼブブさん……」
「私は魔界の紳士ですから、たとえ下賤で穢らわしい便所虫であっても、この高貴で気高い手を差しのべましょう」
 ベルゼブブは歩いて魔法陣から離れ、佐隈の近くにあるテーブルのほうに行った。そして、そのテーブルに置いてある紙箱からティッシュペーパーを、二枚、続けて引き抜いた。
「どうぞ」
 ふんわりとしたそれを、優雅な動作で佐隈に差しだす。
 佐隈はベルゼブブからティッシュペーパーを受け取ると、顔のほうにやった。
 その直後。
「ブワックションッ……!」
 さっきよりも盛大な、くしゃみをした。
 幸いにして、ティッシュペーパーは間に合ったようだ。