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「王子様と彼女の話」(サンプル&通販告知)

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 佐隈はそれで鼻をかんでいる。
 本ッ当に色気のない女だ。
 そう思いながら、ベルゼブブは佐隈を眺めていた。



 佐隈が用意していたカレーを温め直し、それをイケニエとして食べてから、ベルゼブブは外に出た。
 昼過ぎであるのに、外は薄暗い。空を見あげると、雲に覆いつくされている。だが、今にも雨が落ちてきそうという感じの雲ではない。
 肌寒く、春先のように感じられる気温だ。
 まわりを行く人々のほとんどが長袖を着ている。佐隈のようになにかを羽織っている者もいる。
 ベルゼブブも長袖のシャツを着ている。ただし、召喚された時点で着ていたものとは違う。もちろん蝶ネクタイはしていないし、ジャケットも着用していない。晩餐会にでも出席するような正装では目立ちすぎてしまう。
 だから、人間に見えるように変身する際に、長袖シャツにスラックスという平凡な格好にしたのだった。
 それでも、ベルゼブブはまったく変えていない部分で人目をひいている。
 女性だけでなく男性でも、ベルゼブブの優れた容姿に、一瞬、我を忘れたように眼を止めてしまう者が何人もいた。
 まあ、当然の反応でしょう。
 そうベルゼブブは思った。
 羨望の眼差しを浴びつつ、良い気分で歩く。
「ベルゼブブさん」
 隣を歩いている佐隈が話しかけてきた。
「得意げな顔をしていますよ」
「自分が他人よりも秀でていることを誇ってもかまわないでしょう。本心からではない謙遜をするよりも、いっそ潔いと思いますが」
「でも、ナルシズムを前面に押し出したら、ルシファーさんみたいですよ」
「ぐっ……!」
 ルシファー。職能は傲慢、という悪魔である。その性格はまさしく傲慢で、鼻持ちならなくて、ベルゼブブとしては関わりたくない。しかし、向こうが勝手にライバル視して、ベルゼブブ家の城に押しかけてきたりするのだ。
 当然のように他人の家にズカズカ入ってきて「オレが」「オレが」と暑苦しいほど自己主張するルシファーの姿が、ベルゼブブの頭によみがえった。