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「王子様と彼女の話」(サンプル&通販告知)

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 ふと、店員はベルゼブブのほうに笑顔を向けた。
「今日は旦那様は仕事がお休みなんですか?」
 旦那様。
 だれのことだ、とベルゼブブは思った。
 店員の視線の先にいるのはどう見ても自分である。ということは、旦那様と呼ばれたのは自分だろう。つまり、自分は旦那様。そして、だれの旦那様と見られているのかといえば、この状況では、もちろん……。
「いえいえいえ、違います!」
 佐隈が声をあげた。あせった表情をしている。
「私たちは結婚していません」
「ああ、結婚はまだされていないんですね」
 店員は明るく言った。その返事から、ベルゼブブと佐隈が夫婦であるという誤解はとけたものの、恋人同士だと思っているのがわかる。
「えっ、その」
「ええ、そうなんです」
 困惑する佐隈の隣で、ベルゼブブは落ち着いた声で言った。 ついでに、多くの者が美形と認める顔で、店員に微笑んでみせる。
 優雅な笑みである。
 店員は見とれている。
「……じゃあ、行きましょうか」
 ベルゼブブは視線の先を移動させた。
 佐隈を見て、告げる。
「りん子さん」
「は、はい」
 そう佐隈は返事すると、なぜかベルゼブブから眼をそらし、横を向いてしまった。その表情がほとんど見えなくなる。さらに、佐隈は歩きだした。早足である。
 ベルゼブブも歩きだし、すぐに佐隈に追いつき、その隣に並んだ。
 そのあと、レジで精算を済ませてから、ドラッグストアを出た。
 道を何歩か進んだところで。
「どうして、あんなことを言ったんですか」
 佐隈が聞いてきた。その眼は道のほうに向けられていて、ベルゼブブを見ていない。
 ベルゼブブは首を少しかしげた。
「なんのことですか」