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「王子様と彼女の話」(サンプル&通販告知)

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「さっき、風邪薬の相談に乗ってくれた店員さんが、私たちのことを勘違いしてましたよね」
「ええ、そうですね」
 最初は夫婦だと勘違いされ、そのあとは恋人同士だと思われていた。
「しかし、あの返事でも、間違いではないでしょう?」
 結婚はまだしていない、ということを肯定しただけだ。嘘ではない。
「間違いではないですけど、あれじゃあ、あの店員さん、私たちがカップルだと勘違いしたままです」
「訂正するのもどうかと思ったのですよ」
 ベルゼブブは声をひそめる。
「実は、私は悪魔で、一緒にいるのは私の契約者だ、とは言えないでしょう」
「……」
「それに」
 声を通常の大きさにもどす。
「勘違いされたままでも別にかまわないですから、私は」
 さらりと告げた。
 だが、佐隈は相変わらず進む先に眼をやって、ベルゼブブのほうを見ていない。
「……なんで、ベルゼブブさんって、そーゆー」
 ぶつぶつと、佐隈は意味不明のひとりごとを言った。
 しばらくして、店に入った。今度は食料品などが置いている店である。
 ベルゼブブはまたカゴを持って佐隈についていく。
 けれども、さっきドラッグストアにいたときとは、佐隈の様子が違っている。
 歩く足が重たげだ。
 顔色も悪い。
 風邪をひいているというのは嘘ではないはずなので、ドラッグストアで活き活きとしていたのは、特売品を見て軽い興奮状態になったからだろう。
 その興奮がさめた今、ドラッグストアで元気に歩きまわっていたツケを払わされているのではないか。
「さくまさん」
 ベルゼブブは佐隈との距離を詰め、そっと話しかける。
「今、カゴに入っている物以外で、絶対に買わなければいけない物はありますか」
「……ありません」
「では、精算しましょう」
「はい」