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「王子様と彼女の話」(サンプル&通販告知)

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 素直に佐隈はうなずいた。
 だから、ベルゼブブはレジへと向かう。佐隈がおとなしくついてくる。
 ベルゼブブが主導権を握って、精算を済ませた。
 そのあいだ、佐隈はうつむいていた。具合の悪さが顔に出てしまっているのを、他人に見られたくないのかもしれない。案外、佐隈は強がりだ。
 言わないでいるけれども、かなりつらいのではないかとベルゼブブは思う。
 店の外に出た。
 曇り空の下を歩く。
 初夏とは思えない気温の低さや、同じ道を行き交う人々の声や、走り去る車の起こした風や音などが、いつもは気にならないのに、今はやけに気になる。
 右隣を、佐隈がうつむき加減で黙々と歩いている。一歩、一歩、足を進ませるのも、つらそうだ。本当は立っているのもつらいぐらいなのかもしれない。
 ベルゼブブは右腕をあげて、佐隈の背中のほうにまわした。
 そして、佐隈の身体を自分のほうに引き寄せる。
 佐隈の身体がビクッと震えた。
「ベ、ベルゼブブさん」
「つらいのでしょう。私に寄りかかってくださって結構です」
 ベルゼブブは佐隈が負担を感じないようにわざと素っ気なく言った。
 引き寄せた身体は、やわらかい。女性らしい丸みもある。佐隈は地味な印象があるが、実はスタイルが良いほうで、出るところはしっかり出ているという体型だ。
 自分は悪魔だが、それ以前に男であるので、やはり、この感触に反応するものが体内にあった。
 しかし、今は、そんなことよりも、佐隈の身体の熱さが気になる。出かけるまえに佐隈は熱っぽいと言っていたが、あのときよりも熱があがっているのではないか。
「私は最強の悪魔です。あなたに寄りかかられたところで、なんの問題もありません」
 たとえ佐隈を腕に抱いて飛んだとしても、まったく苦にならないだろう。だから、そうしてもベルゼブブはかまわないのだが、佐隈が気にしそうなので今はやめておく。
「でも」
「他人が私たちの関係をどう思うのか、気になりますか」
 反論しようとする佐隈を、ベルゼブブはさえぎった。
「恋人同士だと思われたって、いいじゃないですか」
 軽やかに冗談のように言う。