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「王子様と彼女の話」(サンプル&通販告知)

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夏の王子様お嬢さん



 ベルゼブブは芥辺探偵事務所にいた。
 結界の力のかかった、ペンギンのような姿である。
 そのペンギンのような手を胸のまえで組み、近くにいる佐隈をじろりと見る。
「さくまさん、今日のその格好、どうなんでしょう」
「どうなんでしょうって、なにか問題がありますか、ベルゼブブさん」
 佐隈はきょとんとしている。
 その黒髪は頭のうしろの高い位置で団子のように結われている。うなじが髪で隠れていない。
 それは、まだいい。
 うなじから肩へと流れる女性らしいやわらかな線が丸見えである。トップスとして着ているものがキャミソールであるせいで。
 さらにボトムスとしてはいているの短いジーンズで、その裾の位置は腰と膝の中間あたりにある。太ももの途中ぐらいから生足がさらされているのだ。
「問題があるのに気づいていないのですか」
 ベルゼブブは厳しい声で言う。
「肌を露出させすぎです」
「暑いんですよ」
 今は夏で、しかも昼過ぎだ。
 そのうえ、事務所のエアコンの調子が悪い。業者に修理を依頼してはいるのだが、時期的に忙しいらしくて、来るのは少し先になるそうである。
 そんなわけで事務所内は暑い。
 だが、所長の芥辺はスーツにネクタイというクールビズにはほど遠い格好で、平然と、自分のデスクで本を読んでいる。暑さを感じないのかもしれない。人間であるのか、ますます疑わしくなってくる。
 それはともかくとして、ベルゼブブは佐隈への態度をゆるめない。
「理由はどうあれ、あなたの格好には問題があります」
「せやせや、アザゼルさんも、さくちゃんの格好には問題があると思うでェ!」
 急にアザゼルがベルゼブブに加勢した。
 しかし。
「なんで、せっかく、そんな短い物はいてんのに、スカートちゃうねん。そこまで見せんねんやったら、スカートでええやないか」
 問題視している点がベルゼブブとは違う、というよりも、真逆だ。