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永遠に失われしもの 第17章

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 漸くミッドフォード侯爵令嬢付小間使いが
 ローマ市内に滞在したホテルを探し当て、
 彼女に雇われた通訳ガイドが判明した時に
 いつものように部下が、
 コーヒーをラウル刑事に運んできた。



「ん?豆変えたんじゃなかったのか?」



 赤茶けた髪の部下は、
 ラウルが何を言っているのかわからないと
 言いたげな顔をして立っている。



「いやさっきの珈琲はやけに旨かったから、
 変えたのかと思って・・・」


「昼間、聴取室で、
 女性に話を聞かれてたときですか?」


「2時間ほど前に、君が入れてくれたヤツ」


「は?私は外回りでしたけれども・・・」


 
 ・・・やられたっ!!・・・


 
 ラウルは思いきり椅子を弾き飛ばして、
 立ち上がり、すぐ捜査本部室へ向かう。
 すぐ後を、驚いた様子で部下が追った。

 案の定、あの中年女性から預かった、
 カールの絵はどこにも見当たらない。



 ・・・畜生ッ!・・・・


 
 あの時、コーヒーを持ってきた部下のこと
 を必死にラウルは思い出そうとする。
 あまり良く見なかったが、
 いつもの赤茶色の髪で、
 いつもの顔だった気がするが自信が無い。

 イルミナティ本部か、支部組織のロッジが
 ここまで迅速に動いているという事なのか

 絵を入手して、わずか数分の出来事だ。
 本部に連絡して指示を待つ時間も、
 無かったことだろう。
 奴らは、確実に自分の近くに、
 潜入しているのだ、今もすぐ身近に。



 ますますわけが分からないという顔をする
 部下を、ラウルはしげしげと観察する。

 

(ここまでやっておいて、
 コイツが白を切っているとも思えないが、
 もはや信頼できる部下などいないのだ、
 この警察内には一人として!)


 その時、ラウルの頭に最後の部下の言葉が
 よみがえった。



 ・・『かしこまりました』・・



 あのとき珈琲を運んだ後、
 確かにそう言ったはずだ。
 今までにコイツが、
 そんな言葉を返したことがあったか!?



「至急、セバスチャン・ミカエリスの手配用
 の似顔絵を作成し直してくれ。
 特に変装の可能性もあることを示唆して、
 顔だけではなく、身長と体格を明記して」



「了解です」



 ・・そうだ、『かしこまりました』だと?
 警察署内に、
 そんな言葉遣いをする奴はいない・・
 何故気づかなかった!もっと早く。


 その言葉遣いは、ラウル刑事の中で、
 セバスチャン・ミカエリスが黒い燕尾服を
 着て、流麗に微かな微笑を浮かべている、
 映像を強烈に連想させていた。



 ・・ヤツだ、間違いなく!・・


 そして、こうも易々と、
 警察署内への侵入まで行えるのは、
 やはり、イルミナティ、ロッジの協力なしでは考えられない。

 そして今、イルミナティに繋がる線で、
 手にしているものは・・・


 ラウル刑事は受話器の傍におかれた、
 通訳ガイドの住所を記したメモに、
 目を向ける。



 ・・これしかない・・