永遠に失われしもの 第17章
僕を探すな・・・リジー。
エリザベス・・僕の元婚約者。
僕をもう、追いかけないでくれ。
僕にあったのは、
いつだって絶望の未来と、呪われた現在。
君を僕の運命の巻き添えにしたくない。
たとえどんな覚悟を決めようと、
僕たちの間には、
越えられない深い断絶がある。
僕たちにはもう共にいられる時間はない。
君に触れることを許されていたのは、
僕たちが失った僕の半身だけ。
光を一身にあびて、僕の良心や、
すべての愛を持ち去って、
先に逝ってしまった。
あの運命の誕生日が来る前までの。
そんな顔をしないでくれ。
嘆き悲しんだところで、
君がつらくなるだけだ。
君は、君の人生を生きてくれ。
僕のいないところで。
どうせ全ては早いか遅いか、
それだけの違いしかないのだから。
セバスチャンはシエルの足先から丁寧に、
口で愛撫を重ねる。
シエルの華奢な足を、
靴下でも履かせるかのように軽く持ち上げ
その小さな親指を口に含んで、
飴のように舌でころがす。
それから徐々に膝裏まで、
舌を滑らかな曲線にそって這わせていった
いつかの夏、
リジー達と川辺で水遊びをしていた。
膝元まで冷たい川の水につかって、
リジーが僕に水しぶきをかける。
夏の光が川面に反射して、
きらきらと小さなさざなみごとに、
目にまぶしい。
その光よりさらに眩しい、
リジーの悪戯な笑顔。
遠い日の思い出。
セバスチャンの舌が、シエルを少年として
象徴する部分に近づくと、
今まで墓石のように冷たかったシエルの身体が、仄かに熱を発するようになった。
目覚めは近いのだと、
セバスチャンは確信する。
あえて、その部分を避けて舌を下腹部から
胸に添わせ、シエルの胸を包み込むように
自分の青白く細い手を置いた。
本当に微かだが心臓の脈動が、
掌に伝わってくる。
花畑で鬼ごっこをしている。
空は青く高くあたり一面花で埋もれてる。
リジーが鬼で、僕も笑いながら逃げている
石でつまづき倒れた僕の上に、
追いかけてきたリジーが跨って、
僕の胸の上に花を散りばめて笑っていた。
心臓の鼓動を促すかのように、
セバスチャンは、
シエルの桜色のちいさな胸の突起を、
舌先で突付きながら舐める。
紅茶色の瞳で、
シエルの閉じた瞼を見つめながら。
作品名:永遠に失われしもの 第17章 作家名:くろ