永遠に失われしもの 第17章
セバスチャンに似た少年が、金髪の男に
繰り返し凌辱される夢を見ていた時、僕は
少年に対しては嫌悪感は抱かなかった。
全力の抵抗を試みない彼に苛立ちはしたが
全てをあきらめ、心を遮断するしか、
他に手のない時もある。
そして何より、それが夢であることを、
僕は知っていた。
少年の漆黒の髪と紅茶色の瞳は明らかに
セバスチャンとしか思えないものだが、
きっと似て非なるものなのだ。
何より僕はアイツがどれほど気位が高く、
高慢で傲慢であるか知っている。
また、それがたとえ真実の彼の過去だったとしても、今更僕には関係のないことだ。
そして人間であった頃の僕とちがって、
彼は過去のことを持ち出して、
吐きそうになったり自己嫌悪したりなど、
するはずもない。
まるで意味のない夢なのだ、きっと。
心に生じる不快感は、
僕がこの夢を見ていること、
繰り返し見させられているということ故だ
もしもこれが現実で今現在起きていたとしても、僕に生じるのは怒りでしかない。
僕の駒、僕のしもべ、
僕の玩具を勝手にいじられ、
使われたことに対しての。
その後は、少年が淫靡に誘ったり、
喘ぐ夢も度々見たが、
僕の心はそれを嘘だと告げていた。
最初に見た少年の凍てつくような、無関心
無感情な紅茶色の瞳の印象が、
全てを物語っている。
僕の中の悪魔の心が、
それを見たかったのかもしれない。
美しいものが穢されていく様を。
堕ちて行く様を。
むしろその自分の心の浅ましさの方が、
大いに嫌悪感を与え、
その心を捥ぎ取り切り落としたくなる。
僕は自分の中の悪魔が厭おしい。
だが、ただそれだけのことだ。
ある時から、少年の夢は突然終わった。
そして、もっと僕を奈落の底に、
引きずり落とす夢が始まった。
悲しい小間使いの物語。
これは、真実だと心が僕に告げている。
見知った者を殺す命令を出すときの、
不快感は今に始まったことじゃない。
助けず見殺しにしたのも、
今回が初めてじゃない。
それでも彼女の主に対する真摯な愛情に、
僕は徹底的に打ちのめされた。
主に命まで捧げるのは、僕のしもべだって
そうするだろう。
僕がたまらなかったのは、
最後に彼女が見た夢だ。
そこには、僕が自らの尊厳を取り戻すため
復讐に魂を売り、手放した未来そのものが
たった一瞬の光景で表されていたのだから
小間使いの真摯な愛情が、彼女に見せた、
最後の夢で、僕は砕かれた。
作品名:永遠に失われしもの 第17章 作家名:くろ