永遠に失われしもの 第17章
「やめろっ、リジー!」
瞳を煌々と燃やしながら、
シエルは大きな声で怒鳴って、
やっとその夢を終わらせることができた。
セバスチャンはくっくっと笑いながら、
シエルから指を思いっきり引き抜く。
その途端に、シエルはぐっと喘ぐように
呻いて、吐精した。
シエルは飛び上がるように上体を起こして
とっさに枕の下に手を入れ、まさぐる。
「そんなところに拳銃はありませんよ。
ここで、
目覚められたのは初めてなのですから」
混乱する頭を整理して、シエルは、
状況を理解しようとしていた。
「私を撃ちたいのですか?
貴方は本当にひどい方ですね。
私にこんなことまでさせておいて、
自分は婚約者の夢で、夢精されるとは」
まだセバスチャンは寝台に座り、
くっくっと笑い続けている。
「お前っ!僕が寝ている間に何を?」
シエルは怒りと恥辱感で、今にも、
セバスチャンに食ってかからん勢いだ。
「ああ、動かないでください。
シーツが汚れます。
今綺麗にして差し上げますので」
シエルは、立ち上がろうとするセバスチャンのタイを掴んで思いっきり引っ張り、
その顔をぎりぎりまで寄せるが、
セバスチャンの顔は不敵な微笑のままだ。
「お怒りでしょうね」
「当たり前だっ!」
尚もタイを引き千切らんばかりに引っ張り
首を絞め続け、
セバスチャンに微かな苦悶が浮かぶ。
と共にベストの上に見える白いシャツが、
胸のところから見る見る間に、
赤く染まっていく。
シエルの青碧眼が驚きで見開かれる。
閉じた口の中も血で溢れているのだろう、
口端から一筋の血が流れ滴り落ちた。
「それじゃ、話もできないだろう。
あとでゆっくり、
事の顛末は聞かせてもらうからな・・」
シエルは唇をあて、
その頭を包み込むように抱きしめ、
口腔内の血を飲み干すように、
セバスチャンの舌を吸い続けた。
・・悪魔なぞ、僕とお前だけで十分だ・・
--その瞬間の貴方は、
まるで泣くような顔をするのですね--
作品名:永遠に失われしもの 第17章 作家名:くろ