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永遠に失われしもの 第17章

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トランクから黒いローブを取り出して、
 羽織った。

 小一時間ほど待っても、やはり
 シエル・ファントムハイブ伯爵は現れない

 勇気を振り絞って、
 祠の中の真っ暗な階段を降りる。
 予備に用意しておいた蝋燭に火を点し、
 暗く狭く長い廊下を歩んだ。


 胸騒ぎがする。
 来た道を一目散に逃げ帰りたい気持ちと、
 先を確かめねば帰れないという気持ちで、
 心が乱れる。
 暗い霊廟はさらに私の恐怖を掻き立てた。


 もうかなり降りただろうか、
 ここまで来ても、何も発見できないならば
 先を行っても無意味じゃないだろうか、
 と思い始めたとき、
 微かに遠くに人々のざわめきが聞こえた。

 その声を頼りに、先を急ぐ。
 なぜか少女の婚約者にここで、
 会えるかもしれないと思い始めて、
 次第に恐怖がなくなっているのに気づく。


 突然、今まで歩んできた場所とは、
 全く異質な空間に入った。

 狭い産道から生み出された赤子のように、
 圧迫感と窒息感から一気に解放された。

 
 手にした蝋燭より何倍も明るい沢山の蝋燭が燭台に立てられ、
 この広い空間を照らし出している。

 壁の壁画から、
 ここは教会なのだと気がついた。
 同じように黒いローブを、
 頭からずっぽりと被った幾多の人々が、
 前を向いて、口々に叫んでいる。

 イタリア語なのだろう、
 何を言ってるか分からないが、
 皆怒鳴っている。
 
 何に向かって怒鳴ってるのか見ようと、
 黒いローブの人を掻き分け、前に進むと、
 瞬間にここは呪われた場所なのだと、
 思い知らされた。


 限りない恐怖と嫌悪で、
 嘔吐してしまいそうだ。

 目の前で、神の国を冒涜するような、
 様々な行為が行われていたのだから。


(お嬢様・・貴方の婚約者の夢は私に何を、
 伝えたかったのでしょうか?)


 少女を連れてこなかったのは、自分にしては珍しく賢明な判断だった。
 しかし自分も、この場に居てはいけないと
 気づかれぬように、
 後ろずさりに出口に向かおうとする。


 怖い。
 助けて。


 群集の前の方では、
 さきほどにも増して怒号が飛び交い、
 さらにひどい乱交と殺人が行われているようだった。
 
 じりじりするほどゆっくりと、
 誰にも悟られないように、後退して、
 あと少しで出口というところで、
 それまでの群集の声がぴたりと止んだ。


 もしや、自分が逃げようとしているのが、
 感づかれてしまったのではないかと思い、
 動きをとめ、あたりの様子を伺う。
 黒いローブ姿の群集はぴたりと動かない。

 がこちらを振り向くでもない、
 気がつかれてはいないようだと思い、
 出口に振り向こうとした所で、何かが、
 天井と柱を飛び回っているのが見えた。


 ひらひらと黒鳥のような羽が、
 舞い落ちてくる。


 羽を見上げて、
 一瞬自分がどこにいるのか、
 これは夢の世界の続きなのか、
 とんでもない悪夢の中のことなのか、
 とりとめもなく、そう考えた。

 と、私はもう既に床に倒れていた。
 喉から噴き出す血で、顔半面が覆われる。


 そして私は知った。
 自分が生者の世界には帰れないことを。

 少し前まで世界はありきたりだったのに、
 いきなり私は、
 どこか遠くに来てしまった。
 いや、あの夢を見たときから、
 既に始まっていたのかもしれない。


 最後に倒れる前に、少女の婚約者と、
 その執事の姿を見た気がしたが、
 きっと私が少女のために、
 彼らを見つけてあげたかったから、
 私が心に描いたのだろう。

 今、こうして少女の笑顔を、
 前にしているように。



(彼らがお亡くなりになっていても、
 私が黄泉の国に行って、
 彼らを戻らせましょう・・・)


 
 少女が花を紡いで、笑っている。
 綺麗なドレスに目を輝かせている。
 大好きな婚約者に、笑顔で抱きついている



(いつもお役に立てなくて、
 すみません、お嬢様)