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永遠に失われしもの 第18章

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「多分戻られたのでしょう--
 侯爵家に、小間使いとしてまた」



 夜九時を過ぎた柱時計に一瞬眼をやって、
 全員に紅茶を差し出しながら、
 セバスチャンが答えた。



「ですが--お察しの通り、
 もう彼女は生きている人間ではありません

 死者の記憶から、偽装に必要な情報を得て
 なりすまし--」


「エリザベスに近づくというわけだな?」



 シエルは、ティーカップに口をつけて、
 セバスチャンを見上げる。



「っていうか、それ意味あるワケ?」



 グレルが呆れた不満げな顔で、
 シエルの空のティーカップを見て言う。
 それにシエルは、悪魔的なとしか、
 言いようのない表情をして答えた。



「何も。ただコイツの、
 仕事を増やしてやってるというだけだ」


「温情溢れる主君に、私は
 感謝しなければなりませんね」


 
 シエルを見下ろしながら、
 挑発的に微笑するセバスチャンを見て、
 グレルが爪を噛みながら言う。



「ちょっと嫌味の応酬しながら、
 見つめあって、
 二人の世界作り上げないでョ!」


「でも報告書、書き終わってたのが、
 せめてもの救いだねぇ...」



 一人用椅子の肘掛にグレルが座っているおかげで窮屈な思いをしながらも、
 葬儀屋は、器用に、
 黒く長い爪で取っ手を持たずに、
 ティーカップを支えている。

 
「ホントよ~。アレさえウィルに出しとけば
 気が付かれないうちに、
 シネマティックレコードを回収して、
 死神図書館に戻せば何とかなるヮ・・

 でも早く見つけ出さないと・・」


「その報告書、見せていただけませんか?」



 グレルは書き上げた報告書を、
 セバスチャンに渡した。
 漆黒の執事は一通り目を通して、
 シエルに渡す。

 シエルにとっては、報告書を読んで、
 もう一度彼女の人生に触れて、
 夢の中でみたような
 自分の将来の残像を見たくは無かったが、
 グレルの文章力の無さのお陰で、
 想像していたよりは、
 はるかに心の負荷は少なかった。
 


「で、エリザベスに近づいて、
 僕に会ったというつもりなのか?」


「さぁ、そこまでは--。
 なんにせよ、貴方とエリザベス様を
 どのような形かは知りませんが、
 再会させたいことは、確かでしょうね」


「シエル・ファントムハイブが生きていた
 と彼女が知って、何の得があるんだ?
 これを盗んだヤツにとって」