永遠に失われしもの 第18章
軽く咳払いをして、シエルの前に姿勢良く
立ち、セバスチャンが話し始めた。
「カタリ派とはグノーシス信仰に影響された
キリスト教の異端の一つで--
ああ、グノーシス信仰については、
説明は割愛させていただきますね、
興味があれば、ご自分でお調べください」
「わかった、続けろ」
シエルは、軽くため息をつきながら、
先を促した。
・・そのどや顔がむかつく・・
「彼らは、この世界が唯一神によって、
創造されたことは認めていましたが、
キリスト教の聖なる神によってではなく、
邪な神によって造られたと信じていました
人も勿論その邪な神によって造られし存在
であって、生まれながらにして罪人であり
それ故人が聖なる神の国に至るためには、
この世の一切の世俗を絶つしかないと、
説きました。
また、彼らの中の聖職者には、
これ以上罪人である人間を生み出さぬ為、
結婚を認めず、生殖を目的とする、
一切の性行為を禁止したのです」
「なるほど、確かに異端だ・・・
だが、確かに人間などろくでもないから、
増えないに超したことは無いな」
「お気に入りになられましたか--
改宗でもなさいますか?
その一方
-ここが彼らの特異な特徴ですがー
生殖を目的としない性行為は、
むしろ奨励されました。
正統なキリスト教によっては、
恥ずべき行為である、ソドム行為、
いわゆる同性愛的な性行為も、
生殖を目的としないので、寛容に、
むしろ奨励され、時には強制的にも」
「そんなものに改宗してたまるかっ
大体僕はなにも信じてなどいない」
「私が貴方をいつ如何なる時でも守るとは信じたのですから、ぼっちゃんは悪魔の事は、
信じていらっしゃる」
セバスチャンは、シエルに対し、
微かな嘲笑を含んだ微笑を向ける。
「部分的にだ」
シエルも挑むような目つきで、微笑し、
お互いに牽制する。
ふふと軽く笑って、セバスチャンがまた、
語り始めた。
「そして、その異端さ故に、カタリ派は、
キリスト教会に激しく弾圧され、
異端審問所の対象となりました」
「魔女狩りだな」
「ええ、そうです。
彼らは、地下に潜り活動を密かに続け、
時とともに、反キリスト教的な、
他の異端の宗教と交じり合い、
今はイルミナティという名前で、
活動を続けています」
・・イルミナティ・・
裏社会で、その名を聞いたことの無いもの
は多分いないだろう。
「聖ゲオルギウスがカタリ派だったという事は、子孫も残していないわけだな」
「ヒヒヒ...そうだねぇ...」
葬儀屋の座っていた椅子にもたれかかって、話に退屈したグレルが寝ている。
「で、聖ゲオルギウスは契約者である悪魔に
魂を喰われず、今も生きてイルミナティに
いると?」
「さぁね...小生は、
彼の死の痕跡は発見できなかった、
というだけさ」
「悪魔が魂の契約を結んでおきながら、
その相手をそこまで長く、
生きながらえさせることはあるのか?」
「契約内容次第ですが、
通常ならまずありませんね。
でも悪魔が得る報酬が、彼を活かす事で
彼の魂以上にさらに価値ある物を得るなら
しかも八百年以上待つほどの、
それなら、あるかもしれませんが」
作品名:永遠に失われしもの 第18章 作家名:くろ