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永遠に失われしもの 第18章

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 シエルとグレルを書斎まで案内して、
 セバスチャンは自室にもどる。
 後を葬儀屋がゆらゆらついていった。

 セバスチャンは自室の扉を開け燭台を置き
 蝋燭の灯をランプに移し変えている。
 葬儀屋が戸口に立って部屋を見回して言う


「実に殺風景な部屋だねぇ...
 必要最低限のものしかない。

 昔もこの部屋を使っていたのかい?」


 さほど広くない部屋には、
 書き物をするための小さな机、
 簡素なベッドと、ベッドサイドテーブル、
 鏡と、小さな円いスツールしかなく、
 部屋の装飾もほとんど無い。

 その部屋に隣接した小さな、
 ウォークインクローゼットに入り、
 脱いだ燕尾服をハンガーに吊るしながら、
 セバスチャンが答える。
 

「いいえ、この部屋は使用人室でしたから。
 そのスツールでは疲れるでしょう。
 寝台に腰掛けてくださって、結構ですよ」


「こっちにお出でよ...」


 タイを緩めて外すセバスチャンに、
 寝台に腰掛けた葬儀屋が言う。


「何でしょう?」

 
 近づいたセバスチャンのタイを引っ張り、
 葬儀屋は、寝台に無理やり寝かせる。



「油断してました。その痩躯にしては、
 意外に力がお有りになるのですね」


 葬儀屋はセバスチャンの頭を枕の上に乗せ
 タイを抜き、シャツのボタンに手をかける



「ちょっと見せてごらんよ...」

「いいです、自分で外しますから」



 セバスチャンは白いシャツのボタンを外し
 前を開いて、上半身を見せる。
 厚いとはいえない胸板だが、
 貧弱なわけでもなく、無駄な脂肪一つない
 柔軟な筋肉がほどよくついた、
 青白い妖艶な体が露わになる。

 葬儀屋はセバスチャンの浮き出た鎖骨から
 心臓の上まで、黒く長すぎる爪を滑らせた



「なぜ分かったのです?」

「勘さ...伊達に長く生きてないからねぇ」



 葬儀屋はかすかに浮き出た模様を、
 長い爪でなぞる。



「この印に見覚えは?」

「ええ、ありますね、残念ながら」

「悪魔と契約したことになるのかい?」


「さぁどうでしょうか--
 こんな経験は初めてですので。

 ですが私は契約内容を知りませんし、
 大体悪魔ですので、
 魂を上げるわけにも参りませんから、
 契約にはならないのでは?
 
 あくまで希望的観測ですけど。

 それにまだ鮮明なわけじゃないので、
 なんの拘束力もないことでしょう」


「それでも君は相当弱っている」