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永遠に失われしもの 第18章

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「この傷の治りもおそいねぇ...」


 葬儀屋が黒く長い爪で撫でる、
 横たわったセバスチャンの胸には、
 上気して毛細血管が拡張した様な薄桃色の
 円に囲まれた幾何学図形と、
 反転したラテン文字からなる模様が、
 浮かび上がり、その周りには、
 ようやく塞がりかけた酷い傷が、
 未だ生々しく残されている。


「無理もないか、執事君は、
 伯爵に精を注ぎ込んだのだろう?
 君自身すら危ういというのに、
 ろくに食べもしないで」


「精は注いでませんよ、血だけです。
 まぁ似たようなもんですけど」



 極微かに眉を寄せて、
 不快とも不機嫌とも取れる表情をするセバスチャンを見て、
 葬儀屋は口を大きく横に広げながら、
 笑っている。


「ヒヒヒ、小生はてっきりさっき...」


「未遂です。
 貴方こそ絶叫テクニックの持ち主とは、
 おみそれ致しました」


「試してみるかい?」


「いいえ、遠慮しておきます」



 間髪いれずに、セバスチャンが答えて、
 さらに葬儀屋はゆらゆら揺れながら笑う。



「なんにも食べないで、このまま与えていく一方では、君もこの世界に居続けることは難しくなっちゃうよ。」


「ええ、そうですね」


 セバスチャンは、顔を横に向けて、
 ベッドサイドのランプの炎のゆらめきを見つめた。
 葬儀屋は、手を伸ばして顔の横にかかった漆黒の髪を除け、その炎の映る紅茶色の瞳を眺めている。
 


「君達悪魔は、この世界にいるときには、
 この閉じた世界の増大するエントロピーに
 逆らって生きるために、
 人の魂のような、膨大なエネルギーを、
 必要としてしまうからねぇ。

 魔力を使えばなおさら。
 それでなくても、ただ存在するだけでも。

 しかも君たちは、元の世界に自由に行き来できるわけではない。
 この世界に来る為には、召還されるときの
 人々の集合的な思念エネルギーを利用して
 しか、来れないんだよね?」


「ええ、帰るのは簡単ですけど。

 こちらの世界は、いわば高いところにある
 水のようなものですから、
 あちらの世界の低い場所には、
 自然に放っておいても流れていきます。

 死神のようにはまいりません」


「同じ負のエントロピー、いわゆる
 ネゲントロピーの存在であっても、
 死神はデスサイズのお陰で、
 そうした制約からは逃れられているからね

 死神はデスサイズで容易に空間を切り開いて、開放された、閉じていない世界、
 死神世界にいつでも戻れるし、
 この世界にも易々と来れる。

 そのお陰で、この世界のエントロピーの増大に太刀打ちしなきゃいけないほど、
 エネルギーを必要としないで済むのさ。
 魂を食べなくても、血も精も無くても、
 何にも困りはしない」


「ふふ、また死神へのリクルートですか?
 ええ、それは羨ましくもありますが、
 また可哀想にも思えますよ」


 セバスチャンは艶美に微笑しながらも、
 炎を見続けている。



「何でだい?」


「魂に執着して、喰らう、
 その甘美を知らないからです。
 必要もなければ、
 そこまで執着もできますまい」


「そうかねぇ...君は既に必要も無いのに、
 執着してきたじゃないか、伯爵の魂に」


「それは、既にその甘美な味わいが、
 十分予想できたからです」


 葬儀屋は顔をセバスチャンに寄せ、
 さらに近くで瞳をのぞきながら尋ねる。


「では今は?
 もう永遠に味わえないとわかっているのに
 それでも君は、
 絶対に離れない、伯爵の元を」


「ふふ、やられましたね。
 確かに必要性がなくても、執着してますね
 私は。
 でも、それが契約ですから」


「小生はね...そこまで契約を守る悪魔を見たのは初めてだから、
 こんな事を尋ねているのさ。
 
 元来悪魔は嘘つきで、契約を守らないもの
 君は変わってる」
 

「褒められているのですか?
 それとも悪魔らしくないとでも?」

「その両方さ...」