ヅラ子とベス子のSM(すこし・ミステリー)劇場
俺のロンゲの髪の毛が一束ごっそり逆立った。根元から回転しながらしばらくブルブル振動していたアンテナレーダーが、突如ガコンと直角に折れ曲がり、ひとつの方角を指し示す。止まっていた風が草を薙ぐ。頭の底がしんと冷たい。張り詰めた空気に俺の五感が研ぎ澄まされてゆく。目を閉じていても俺には見える、聞こえる、手に取るようにクリアにわかる、風の運ぶ味も匂いも、野っ原を越えて、川を渡って、川沿いの防風林の向こう、……そーかあいつら、アッチの方でドロケイやっていたんだな、……見える、見えるぞおまえらひとりひとりの動きが、大気を伝わる電磁波を通して筋肉一本の収縮までな!
――というナゾの力が覚醒してしまったことを深刻ぶって先生にそーだんしたところ、先生は常と変わらぬ穏やかな笑みを絶やさないまま言いました。
「……木圭くん、人間の脳にはうまく使い切れていない部分がたくさんあるそうですよ。君は自力でその拡張デバイスへの接続方法をマスターした、スバラシイじゃないですか」
「スバラシイ……? 俺はスゴイんですか先生!」
俺は先生に詰め寄った、力強く頷いて先生が言った、
「そうです、スゴイんです、」
「!」
疲弊し、摩耗しきった俺の精神はたちまち覇気を取り戻した、
「先生! じゃあ俺は決してかわいそうな変人なんかじゃないんですね!」
「変人なんてとんでもない、むしろ超人です」
「超人……!」
その魅惑の響き、悦楽の陶酔、先生のお墨付き、こうして俺は己の会得した特殊能力にせっせと磨きをかけ、極めて自己肯定力の高いりっぱなデムパとなったのでした、メデタシメデタシ♪ ……つっても今じゃ必要以上に感度上げすぎて使えない雑念ばっか拾うようになっちゃったんだけどね〜困ったモンですアハハハハ★
+++
(じゃ)じゃ●〜る(3)
なんっかそーいやそんななまえのざっしあったなーって、授業中にふと思い出して(もちろん顔はスゴイしんけんに先生の話聞いてるよ!)、ねっと検索する前にかってにそーぞーしてたのがてんしょくざっしだったっけ?ってコトで、……てんしょくかぁ……、俺の天職って何だろうなァ……、指先に石筆くるくるしながら考えて、――そーだな、例の超人能力も手に入れたことだし、このひぼんな才能はぜひとも世に出すべきだよな! とおもったのでとにかく俺はしょーらいゆうめいじんになろう、とかたく心に決めました。
ゆうめいになるにはまずなまえを売らなくてはなりません。……そうね、俺のなまえにねだんをつけるとしたらおいくら万円くらいかしら、俺は石板の横っちょに試算を始めました。
俺ん家はろーかるだとすでにわりと知名度あるので、しかもまぁぁあそこの利発なぼっちゃん! これはもうほっといても高付加価値のパターンですぞ! 俺はほくほくウハウハしました。そんですっかり気が緩んで顔に出たのでつい先生にバレました。
「……これは何の算式ですか?」
先生が訊ねました。利発な上に腹が据わっている俺は包み隠さずしょうじきに答えました。
「俺のなまえがいくらで売れるか計算していたのです」
「名前を売る?」
石板を眺めて先生が言いました。少し険しい目をしていました(※目張りなしの顔は見たことないのであくまで想像)。先生が静かに口を開きました。
「だったら“木圭”は外すべきです、これは君の家の名前であって君個人のものではないのですから」
「でもっ先生!」
俺は食い下がりました。「それじゃ俺は苗字なし小太郎になってしまいますっ!」
「――では、」
ニコリともせず先生が言いました。「今日からカツラではなく“ヅラ小太郎”とでも名乗りなさい」
「ええーーーーっ!!!」
ンならんぼーな、……――そうだ、思い出したぞ、最初に俺のことヅラヅラ言い出したのって先生じゃん! あれで一気に広まっちゃったんだよォォォ!!! ホンっトにもー、先生のお茶目も参るよなーーーーっっっ!!! ……なんつってさんざめーわくぶったフリしつつ、生まれて初めてトモダチにあだ名で呼ばれてあの頃実はちょっぴり涙ちょちょぎれ状態だったのさっ☆っていう、取って付けたよーなイイハナシダナー風味スパイスをまぶしたところで途中から完全にオチが読めてた上にそもそも『じ●ま〜る』は転職雑誌じゃなくて個人間のフリマ情報誌的なやつでした、というやくしまるひろ……VVの悲劇オチでした。おわり。
+++
――というナゾの力が覚醒してしまったことを深刻ぶって先生にそーだんしたところ、先生は常と変わらぬ穏やかな笑みを絶やさないまま言いました。
「……木圭くん、人間の脳にはうまく使い切れていない部分がたくさんあるそうですよ。君は自力でその拡張デバイスへの接続方法をマスターした、スバラシイじゃないですか」
「スバラシイ……? 俺はスゴイんですか先生!」
俺は先生に詰め寄った、力強く頷いて先生が言った、
「そうです、スゴイんです、」
「!」
疲弊し、摩耗しきった俺の精神はたちまち覇気を取り戻した、
「先生! じゃあ俺は決してかわいそうな変人なんかじゃないんですね!」
「変人なんてとんでもない、むしろ超人です」
「超人……!」
その魅惑の響き、悦楽の陶酔、先生のお墨付き、こうして俺は己の会得した特殊能力にせっせと磨きをかけ、極めて自己肯定力の高いりっぱなデムパとなったのでした、メデタシメデタシ♪ ……つっても今じゃ必要以上に感度上げすぎて使えない雑念ばっか拾うようになっちゃったんだけどね〜困ったモンですアハハハハ★
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(じゃ)じゃ●〜る(3)
なんっかそーいやそんななまえのざっしあったなーって、授業中にふと思い出して(もちろん顔はスゴイしんけんに先生の話聞いてるよ!)、ねっと検索する前にかってにそーぞーしてたのがてんしょくざっしだったっけ?ってコトで、……てんしょくかぁ……、俺の天職って何だろうなァ……、指先に石筆くるくるしながら考えて、――そーだな、例の超人能力も手に入れたことだし、このひぼんな才能はぜひとも世に出すべきだよな! とおもったのでとにかく俺はしょーらいゆうめいじんになろう、とかたく心に決めました。
ゆうめいになるにはまずなまえを売らなくてはなりません。……そうね、俺のなまえにねだんをつけるとしたらおいくら万円くらいかしら、俺は石板の横っちょに試算を始めました。
俺ん家はろーかるだとすでにわりと知名度あるので、しかもまぁぁあそこの利発なぼっちゃん! これはもうほっといても高付加価値のパターンですぞ! 俺はほくほくウハウハしました。そんですっかり気が緩んで顔に出たのでつい先生にバレました。
「……これは何の算式ですか?」
先生が訊ねました。利発な上に腹が据わっている俺は包み隠さずしょうじきに答えました。
「俺のなまえがいくらで売れるか計算していたのです」
「名前を売る?」
石板を眺めて先生が言いました。少し険しい目をしていました(※目張りなしの顔は見たことないのであくまで想像)。先生が静かに口を開きました。
「だったら“木圭”は外すべきです、これは君の家の名前であって君個人のものではないのですから」
「でもっ先生!」
俺は食い下がりました。「それじゃ俺は苗字なし小太郎になってしまいますっ!」
「――では、」
ニコリともせず先生が言いました。「今日からカツラではなく“ヅラ小太郎”とでも名乗りなさい」
「ええーーーーっ!!!」
ンならんぼーな、……――そうだ、思い出したぞ、最初に俺のことヅラヅラ言い出したのって先生じゃん! あれで一気に広まっちゃったんだよォォォ!!! ホンっトにもー、先生のお茶目も参るよなーーーーっっっ!!! ……なんつってさんざめーわくぶったフリしつつ、生まれて初めてトモダチにあだ名で呼ばれてあの頃実はちょっぴり涙ちょちょぎれ状態だったのさっ☆っていう、取って付けたよーなイイハナシダナー風味スパイスをまぶしたところで途中から完全にオチが読めてた上にそもそも『じ●ま〜る』は転職雑誌じゃなくて個人間のフリマ情報誌的なやつでした、というやくしまるひろ……VVの悲劇オチでした。おわり。
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作品名:ヅラ子とベス子のSM(すこし・ミステリー)劇場 作家名:みっふー♪